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- 日生のカキ筏から生まれた備前焼 ―廃棄物を活用した地域循環圏の構築に向けて―
瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ
活動の目的
1. 本活動の背景
岡山県は全国3位のカキの水揚量を誇り、その多くが備前市の日生地域において養殖されている。カキは、筏(いかだ)と呼ばれる竹と檜(ひのき)の丸太を格子状に組み合わせたものを海に浮かべて養殖している。筏は7~8年使用すると老朽化のため廃棄するが、非常に大きく、取り扱いが難しいため漁業系廃棄物の中でも処理困難物となっている。
このように、昨今の漁業界において、カキ筏をはじめとする漁業生産に伴って生じる漁業系廃棄物の問題が深刻化しており、適正な処理が求められている。漁業系廃棄物は事業系の廃棄物であり、事業者たる漁業者が自らの責任において処理すべきものである。しかしながら、その処理を漁業者のみで行うことには技術面、資金面等に各種の問題があり、また、廃棄物およびその処理には地域的にその実態が異なっていることから、地域ごとに廃棄物処理のための体制を整備する必要がある。
カキ筏の処理について、このまま適正な処理や利活用方法が見つからない場合、引き続き大気汚染等の環境問題の原因となることが懸念される。
2. 本活動の目的
今回の活動では、カキ筏の利活用による地域循環の仕組みを構築するため、カキ筏の発生から解体・加工(破砕)、竹・檜の引き取りから、備前市伊部地区の伝統産業の備前焼に使用するアカマツの代替燃料としての利活用について取り組むとともに、カキ筏の新たな利活用の可能性を検討するため、関係者による協議会を通じて適正処理と地域循環システムの構築を目指すものである。
活動の経過
1. 協議会の開催
日生町漁業協同組合、廃棄物処理業者、備前焼作家、学識経験者、行政及び事務局による定期的な意見交換の場として、「日生のカキ筏から生まれた備前焼プロジェクト打ち合わせ」を実施し、定期的に本活動の方向付けを行った。
7月、9月、11月、1月そして4月と計5回の打ち合わせでは、関係者それぞれの活動内容の進捗状況や検討結果の報告、今後の予定等を共有し、解決すべき課題等についての意見交換を行った。
2. 排出量と現行の処理コストの推計
年間の廃棄カキ筏80台のうち、30台は解体・焼却を漁協へ依頼、残りの50台は野焼きが行われている現状を踏まえ、改善に向けて排出量の推計を実施した。
カキ筏の廃棄重量は、カキ筏1台を解体・破砕処理したところ、フレコンバッグ120kg 入が15 袋になった。よって、120kg×15袋=1,800kg、1 台あたり1,800kgで、毎年80 台が廃棄処理となることから年間排出量は144トンと推計することができた。
また、カキ筏の解体にかかるコストを求めるため、解体(竹や檜)を固定している針金を手作業で外す作業)・分別作業を実施した。作業は4人で8時間程度かけ2.5台を解体できることが明らかになった。
解体・分別作業の単価を2000円/ hとすると、カキ筏1台あたり25,600円の人件費が必要になることが明らかになった。また、破砕機の年間経費を50 万円としてコストの推計を行った。
1)カキ筏80台中30 台をチップ化する場合
解体:25,600円/台
破砕:41,667円/台(12日稼働)
合計:67,267円/台
2)カキ筏80 台全数をチップ化する場合
解体:25,600円/台
破砕:15,625円/台(32日稼働)
合計:41,225円/台
このように、現行のカキ筏の処理コストは67,267円となり、80台全数を取り扱うことにより、コストは約4割削減できることが明らかになった。
3. 適正処理と地域循環システムの構築
日生町漁協では、廃棄カキ筏の全量リサイクルに向けて、ハード整備の第一歩として「破砕機」の導入に踏み切った。廃棄するカキ筏を解体し竹と檜へ分別し、それぞれを破砕機によりチップ化しフレコンバックへ貯蔵する。保管したチップは、バイオマス資源として売却が可能となった。
また、岡山大学大学院環境生命科学研究科諸泉利嗣教授と連携し、カキ筏の地域循環に向けたシステムの検討を行った。カキ筏のリサイクルシステムの構築には、①作業人件費をできるだけ抑える、②取り扱う廃棄カキ筏の台数を増やす、③バイオマス資源としてできるだけ高価で売却できる先を探す、といったポイントを押さえる必要がある。これらの条件を変数として、リサイクルシステムのシミュレーションソフトを作成し検討を行った。
以上より、カキ筏から製造されたチップの売却価格が、収支を大きく左右することが明らかになった。具体的には、チップの売却価格が1円/kgの場合は、廃棄全数の80台を処理しても利益は出ない。チップの売却価格が5円/kgの場合は、45台以上の取り扱いで利益が発生し、10円/kgの場合、現行の30台の取り扱いで10万円以上の利益が発生することが明らかになった。
4 カキ筏の備前焼への利活用
通常、備前焼には高温で長時間焼き締めるために、燃料にはアカマツが利用されている。本活動に賛同した備前焼作家平川忠氏は、「廃カキ筏が、備前焼本来の焼き色を邪魔しないための利用方法を構築すること」を目的として、平成24 年4月に合計約500kg の廃カキ筏を700℃までの温度帯で利用することにより、廃カキ筏が備前焼本来の焼き色に影響を及ぼさない利用が可能であることを証明した。その後も数回にわたり焼成を続け、本活動の期間においても焼成を実施し、あらためてカキ筏の備前焼での利活用が可能であることを示した。
備前地域の循環資源である廃カキ筏の活用は、瀬戸内海の環境を守るだけでなく里山の環境保全にもつながり、また現在の地球環境に求められている取り組みにも整合し、意識啓発の一助としての役割も併せ持つと言える。
活動の成果
備前市は2005年に備前市、日生町、吉永町が合併し誕生している。旧備前市は75%を山林が占め、他方、日生町は県内有数の漁業が盛んな地域でもある。この山と海を併せ持つ備前市における廃棄物の地域循環システムの好事例として、カキ筏の有効利用の検討を行った。製造したチップがバイオマス燃料として適正金額での売却が可能となれば、地域における持続可能な地域循環のシステム構築が可能であることを示した。
活動の課題
引き続き、解決するべき課題を検討する必要がある。
一つは「カキ筏のエージングによる塩分の徹底除去」である。カキ筏のチップを分析したところ、塩分は0.73%を示し、RPFのJIS 規格である0.3%よりも高い値となった。この問題をクリアするためには、一定期間カキ筏を雨ざらしにするエージングが必要と思われる。
また、廃棄全数である80台のカキ筏の回収を行うためには、適正処理の重要性と地域循環システムの構築について、引き続き組合員への啓発活動を継続・強化していく必要がある。
もう一つ、燃料のブランド化と売却先の検討もポイントといえる。
カキ筏を原料としたチップのブランド化の検討と15年稼働予定の日本海水(株)赤穂工場の日本最大級のバイオマス発電施設との取引も視野に入れて、引き続き検討を進める予定である。