瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

中山自然美術館構想

中山 一粒の種 佐藤 隼

活動の目的

これまでの「一粒の種」による活動は、小豆島中山地区の ①環境保全 ②生物飼育 ③教育、の三つの軸から展開されてきた。2013年より、上記三つに「アート」の部門をプラスし、“アートを通して中山の魅力を伝える” 活動を発足させ、現在も継続している。その活動の一つは、『中山自然美術館』という屋根のない美術館を構想・運営することで、この地域一帯をアートと共にプレゼンテーションする機会を作り上げていくことが目的である。
2013年6月にプレオープンしたこの自然美術館では、未来を担う子どもたちを主な対象として、生の実感と自然の豊かさを伝えることができるワークショップや作品展示を行い、多くの来場者を呼び込んでいる。併せて、高齢者が多いこの地区にアートを通して地元の方々が元気になるきっかけを作り出している。
一粒の種のアート担当を除くメンバー全員は中山の住民で、高齢者である。彼らは常に環境整備と地元住民とのコミュニケーションを取っており、中山地区で必要不可欠な存在である。併せて、瀬戸内国際芸術祭2013が閉幕した今、特に来年再来年と継続してこの美術館を盛り上げる必要性を感じている。
本企画で、中山地区全体がアートの体感者となれるように、協働して新たな動きを生み出す仕組みを作り上げる。何年も愛される作品をこの地区に残し、いつでも鑑賞可能な環境に変えていきたい。特に、将来を担う子どもたちのための環境にしていきたいと考えている。そして、これまで以上に中山地区のことを考えてもらうきっかけづくりにしたいと強く思っている。

活動の経過

「一粒の種」という団体はこれまで、小豆島中山地区の自然と生物の美しさを伝えるため、子どもたちを対象とした自然と触れ合う体験学習を行ってきた。2006年に亘会長がたった一人で活動を始めてから9年が経ち、今では多くの賛同者と来場者で賑わっている。昨年には念願のオオムラサキの羽化成功と体験観察飼育場が建てられ、さらに活動の幅を広げている。
亘会長は出張講座も行っており、年間数十本の課外授業を行っている。その授業内容は全国の道徳の教科書にも採用されている。外部からの調査研究依頼もあり、いくつかの研究施設や団体が、中山地区の魅力に気づき始めている。
2013年にプレオープンした中山自然美術館では、「中山自然美術展」と題し、アート作品を中山地区に野外展示し、いつでも鑑賞できる環境を創り上げることをメインに、これまで行っている課外授業を、より想像力が膨らむワークショップとして実施している。
2006年から行っている、中山ホタルの郷においての自然保護と子どもたちに自然の魅力を伝える活動と並行して、“アートを通して中山の魅力を伝える” 活動を発足させ継続していくために2013年4月から本格始動している。6月に念願の中山自然美術館をプレオープンさせることができた現時点では、中山をテーマにした壁画第二弾の展示と、参加型の作品を追加展示している。併せて、年間通して中山の自然を感じることのできる環境を制作・整備中である。

活動の成果

2013年度の主なアート活動の成果は以下の通り。
①2013年6月7日( 金) に中山自然美術館をプレオープンさせ、“構想”の部分を取り除く( 以降『 中山自然美術館』 と表記 )
②アートを通したワークショップの実施 ( 自然スケッチ、外部講師を招いてのレクチャー他 )
③ワークショップで制作した作品や中山をテーマにしたアート作品の展示
④中山昆虫壁画(2 点) の加筆と保護
⑤中山自然美術館のオリジナルグッズ販売の計画 ( 次年度より本格実施予定 )
⑥広報活動の充実(新聞・チラシ・Web)、アクセスのアナウンス方法の検討
⑦中山自然美術館の維持
アート以外の取り組みとしては、
( 1 ) ホタルの飼育・放流活動
( 2 ) ホタルの観賞時期の案内 5/20 ~ 6/20( 観賞者延べ3,000 ~5,000人)
( 3 )島の小学校・子供センター・障がい者を対象に自然学習・ホタルの放流
( 4 ) お盆の時期に観光客対象に自然学習・ホタルの放流
( 5 ) ホタルの里周辺の水仙・花菖蒲の植え付け
( 6 )オオムラサキの飼育
( 7 )カブト虫の相撲大会( 小豆島町ふるさと村にて) 宿泊客対象
特にホタルの時期(5月~6月)とお盆(8月)の時期、彼岸花の時期(9月)には来場者が増えたため、特に力を入れ取り組んだ。

活動の課題

『中山自然美術館構想』 の“構想”が取れ、自然美術館として新たな一歩を踏み出せたのは大きな成果である。しかし、今後の課題も多く残されている。
中山自然美術館は文字通り、自然の豊かさを伝えることが第一なので、中山地区の自然環境とアート作品との関係性を明確にしていくことが大きな課題となるだろう。単にアート色が強い作品を点在させるのではなく、環境と作品とが関係し合う不思議な空気感をじっくり味わうことのできる作品を生み出し、展示していかなければならない。そのためには、今後も広くアーティストをリサーチし、自然美術館の舞台に適した作品を展示していくことを軸に展開させなければならない。併せて、この地区に住む地元住民との関係性も構築し、地域に信頼される美術館であり続けることも重要である。
また、作品の多くは野外展示されているので、雨風のダメージが大きい場合もある。こまめにメンテナンスを施し、常にベストな状態で作品を鑑賞してもらう仕組みも必要だ。
プロジェクト後半に感じ始めたのが、広報と場所誘導の問題である。瀬戸内国際芸術祭が島内全体で行われていたため、多くの鑑賞者に恵まれた。しかし、2014年以降数年は先の大規模なアートプロジェクトが行われないため、自力で人を呼び込まないといけない。そのためにも、さらに魅力的なワークショップやイベントを企画実行し、まずは島内のリピーターから増やしていきたい。
牛歩のごとく、ゆっくり丁寧に。いつも新しい美術館を目指していきたい。蛍にオオムラサキ。水仙に彼岸花。四季折々の中山の景色を何度も見てみたい。島内外にそんな人がこれまで以上に増えますように。訪れるたび、いつも新しい発見のあるこの場所に、ぜひ足を運んでみてほしい。