瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

瀬戸内の芸予諸島地域一帯に残存する古民家の建築技術を地域の職人から学び、記録継承するための研究

東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 日髙 仁・西澤高男(東北芸術工科大学)

活動の目的

瀬戸内には、温暖で乾燥した気候のおかげで数多くの古民家が残存しているが、高齢化や過疎化の影響でその多くが空家となり、時間の経過とともに失われつつある。同時に古民家の建築・補修技術も継承されず、今後はその維持すら難しくなり、地域固有の景観が失われてゆくことが危惧される。この研究では、瀬戸内の芸予諸島地域一帯に残存するこうした古民家の建築技術を地域の職人から学び、実践的に記録継承することを目的とする。

活動の経過

本年度の助成決定後、調査だけでなく、将来的に改修を行うことが可能な空家の古民家を探索した。その中で、2012年度の助成を受け、「弓削古民家研究会」と共に古民家の実測調査を行った際にその存在を確認していた「旧梅林邸」が挙がる。上島町が所有者から寄付を受け所有する古民家。瓦葺き屋根が傷み、一部雨漏りもする現状に対し、町に改修の予定があった。「改修により再生し、移住促進のための拠点として活用する」という町の計画に対し、本研究において実測調査と改修計画を行い、次年度、改修費用を予算化することとなった。建物は推定築100年以上、10年以上空家となっていた。学生や地域の方の協力を得て屋内外の残存物の整理処分と清掃を行い、建物の実測調査を実施、図面を作成した。また、屋根や外壁、シロアリ被害のある構造部など、傷みの激しい部分を中心に補修方法について地域の職人や工務店と検証を重ねた。
さらに、実際に古民家の持ち味を活かして活用している物件ではどのように手を入れているのかを実地確認するため、古民家を活かした滞在型のツーリズム先進地である長崎県の小値賀島へ行き、ヒアリングと調査を実施。次年度以降の活動に役立てたいと考えている。

活動の成果

本研究では、愛媛県上島町の協力のもと、旧梅林邸で詳細に調査、検証できたため、建築技術や工法について、職人から具体的に話を聞くことが可能となった。その中には改修工事費も含まれ、来年度の改修計画に対し、大いに参考になった。地元の大工や職人と本研究を通じて交流し、上島町との共同体制を作るに至ったことは、大きな成果である。本年度は、詳細な実測と改修計画を行った。その成果をもとに、次年度は地域参加型の補修・改修工事と、活用のためのソフトウエアの検討を行うが、本研究により、その基礎的な体制づくりをすることができた。
旧梅林邸では内部に残存物が多く、まずは整理と清掃をする必要があった。図面は存在せず、建物内外の実測をして図面作成を行った。その過程で構造や仕上げなど、用いられている建築技術を詳細に知ることができた。古民家の補修は、建築技術の変遷や職人の高齢化に伴って難しくなってきているが、研究活動を継続することで、新しい可能性を見つけたい。来年度は、工事の過程をできるだけ地域の、特に現在古民家を所有されている方々にご覧いただきながら、時には作業に参加していただきながら工事を進めたいと考えている。古民家の存在を身近なものとし、改修によって、地域の資産として、今後も残存させてゆくきっかけにしたい。
一方、補修・改修した建物を維持活用してゆくためのソフトウエアづくりも、今後重要な課題となる。古民家活用の先進地である長崎県小値賀町でのリサーチは、そのために大いに参考となるものであった。技術面とあわせ、改修のための予算確保やその後の運営体制づくりなど、示唆に富むお話をおうかがいすることができた。ここでは紙面が限られているため、これらの研究成果を以下のフェイスブックに掲載している。「空家再生ゲストハウス100」https://www.facebook.com/guesthouse100

活動の課題

本研究の過程で、上島町で古民家を活用するための改修費を予算化していただけることになった。2015年度に活動助成分野で助成いただき、「職人と一緒にみんなで古民家の手入れや整備をする」という共創によるハードウエア整備と、「島内外の方が集まる魅力的な拠点づくりを考える」という活用のためのソフトウエアづくりを地域協働で進めてゆきたい。一方、体系だった職人のデータ収集は予想以上に難航したため、継続して調査したい。