瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

瀬戸内の芸予諸島地域一帯に残存する古民家をまちの活性化と移住促進に活かすための実践的活動

関東学院大学 ・ 東北芸術工科大学 日髙 仁 ・ 西澤高男

活動の目的

瀬戸内には、温暖で乾燥した気候のおかげで数多くの古民家が残存しているが、高齢化や過疎化の影響でその多くが空家となり失われつつあり、今後はその維持すら難しくなり、地域固有の景観が失われてゆくことが危惧される。この活動では、前年度採択された古民家活用研究の続きとして、活動により保存活用が決定した古民家をまちの活性化に貢献するかたちで改修し、再生するための実践を、町の移住促進事業と協働で行う。

活動の経過

限られた予算の中で効果的な改修を行うため、まずは古民家の基本性能や価値を確保するための改修を実施、その上で住み手あるいは使い手を公募し、その目的に合わせた改修を町で補助をするという2段階の改修計画を採用した。2015年度はこの古民家の空間の魅力を多くの方々に知っていただき、改修後の活用について具体的なアイデアを共有し入居する方の募集へとつなげるために、参加型の手入れワークショップと、主に地域の方を対象としたオープンハウスとヒアリングを実施した。空間の良さを取り戻すために余計な物品の撤去と大掃除、雑草の生い茂る庭の手入れを実施。オープンハウス時に座敷と庭との連続感を体験できるよう、現地の木工クラブの方々と縁台を制作した。その上で、古民家が一番魅力的に映る夏の夕暮れ時を楽しむために発電機と仮設配線を行って照明を設置し、オープンハウス時には夜間も開放し、夕涼みも行った。併せて、オープンハウスにお越しいただいた方々に、かつてのこの家や地域の思い出、今後の活用方法などについてヒアリングを行った。残されていたアルバムを見ながら昔話が弾み、かつての賑わいと空間の魅力が再現された。

活動の成果

研究助成をいただいたことで、愛媛県上島町をはじめ、遠方からはるばる来島した学生や地域の方々のご協力を得てこの古民家の内部空間や庭をかつてのように復元し、オープンハウスで広く公開することが可能となった。オープンハウスには近隣の方々をはじめ、上島町長やまちづくりに興味のある方々、島起こし協力隊としていらしている方、かつてこの家に親しみを持っていた方々などがいらして、思い出話や今後の活用策を話し合う賑やかな会となった。また、そのときに実施したヒアリングではこの家のかつての姿や増改築等の経緯、地域の方々にとってどのような場となることを望まれているか等の、貴重なご意見をうかがうことができた。旧梅林邸は、これから2段階改修の第1段階である雨漏りや躯体の本格的な改修に入り、2016年度前半に竣工予定である。また、これまでの活動のもう一つの成果として滞在型環境拠点「海の駅舎」も竣工予定で、ここを中心として町内の各施設とも連携したソフトウエアの策定をしてゆく予定である。旧梅林邸に於いても、入居者の募集やその活用方法を策定するために、活動を継続してゆく予定である。一方で、今後このような古民家をどのように改修し、手を入れてゆくかについては、今回は屋根や基礎回りの構造補修等の大掛かりな工事を公共工事の枠の中で実施しなければならなかったため、それ故の難しさを肌で感じることとなった。まだ町内や地域に数多く残存する空家となっている古民家の維持活用の方策について、新たな方策を練る必要性を感じた。改修工事は入札の都合で、完成が2016年度に入ることになった。今年度も継続して、入居者募集のためのオープンハウスと活用案の策定を進める予定である。

活動の課題

助成いただいた一連の活動を通じて感じた問題点は、公共工事として古民家改修を行う難しさである。指名入札のため登録業者への指名となり、地元の大工などに仕事が回らず、離島による経費高で民間工事の数倍費用がかかる。解体撤去してみないとわからない建物の状況に応じた改修計画も立てにくい。地元NPO などが建物の管理委託を受け、改修設計・工事も民間で行うことが望ましく、こうした仕組み作りが必要と考える。

  • 残置物が片付いた後、大規模な清掃を敢行

  • 残されていた昔の写真を見ながらヒアリング

  • オープンハウス時の座敷。かつての風情が蘇った