瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

架橋で地域社会の生活環境はどう変わるか~瀬戸内・日生諸島の場合~

岡山大学 大学院 社会文化科学研究科 藤井和佐(共同研究者:中谷文美・髙谷幸・松村圭一郎・北村光二)

活動の目的

岡山県備前市日生町の島々のうち、2015年4月「備前♡日生大橋」の完成によって、鹿久居島・頭島が日生本土と結ばれた。「生活道路」として期待された橋は、島民の悲願の結実である。他方で、大多府島と鴻島に、架橋の予定はない。そこで本研究では、4島を視野に入れ、学生の積極的参与と、社会学と文化人類学の知見・調査手法を活用することによって、架橋が離島住民の生活環境にもたらす影響を多角的に考察することを目的とする。

活動の経過

研究メンバーは、頭島および大多府島の町内会長をはじめ地域リーダー、住民の協力のもと、2年前から学生主体の日生地域の調査研究を開始しており、架橋前の状況を把握してきた。本調査においては、これまでの調査成果を生かしつつ、架橋後の今、頭島、大多府島に加え、鹿久居島、鴻島を中心とする日生諸島域における変化の兆しをとらえるために、学生18名(社会学領域、文化人類学領域)とともにフィールドワーク・社会調査を実施した。
その際に、島社会の多元的理解のために、島内で生まれ育った人のみならず、Uターン者、移住者、外国人技能実習生など、多様な属性をもつ住民を対象にした。2015年6月6~7日に、学生・研究メンバーによる合同予備調査、7月18~20日に合同本調査を行ない、2015年10月~2016年2月は、各島を複数回の補足聞きとり調査や行事への参与観察のために訪問した。主な調査内容は、離島でのこれまでの暮らしのあり方と時代による変化、現状に対する不満と問題点の改善への意欲や期待、各島の住民の生活に与える架橋の影響、さらに住民自身が抱く期待や不安、葛藤などについてである。

活動の成果

2010(平成22)年国勢調査結果による各島の人口は、頭島366人、大多府島81人、鴻島42人、鹿久居島11人、高齢化率は4島全体で51.0%である。頭島と大多府島は、カキ養殖を中心とする漁業が盛んであり、繁忙期には住民も雇用されている。また、頭島には海水浴場があり、大多府島には史跡や多くの年中行事があるが、観光業が盛んというわけではない。頭島の旅館・民宿は、1980年代のピーク時には21軒を数えていたが、2015年には5軒となった。鹿久居島は戦後開拓地としての歴史もあり、現在は、世帯のほとんどをみかん農家がしめている。別荘開発地であった鴻島にもみかん農園があるが、その展開のあり方は、「備前♡日生大橋」の完成後に大きく分かれた。鹿久居島のみかん農家は、自動車、バイクで橋を渡る観光客を目当てに観光農園としての機能を強化し、駐車場の整備、食事の提供、加工品の直売にも力を入れ始めている。そして、橋が架からなかった島においては、定期船便の減少などの影響もあり、架橋の島との格差が広がりつつある。頭島においても小学校が2016年3月をもって閉校となり、また、定期船待合所で住民が会話する姿もなくなった。それでも、架橋が生業展開に可能性を拓き、人の往来を促すことにつながったことは確かである。
2016年3月15日、頭島にて学生企画によるフィールドワーク報告会とワークショップを開催した。調査成果をふまえ、若者・ヨソ者である学生の視点を生かした日生諸島域の将来像を住民と共有できた。岡山大学関係者以外の参加者数は、約70名であった。成果物としては、『日生諸島―フィールドワーク報告書』(松村圭一郎・藤井和佐編、岡山大学文学部人文学科行動科学専修コース社会学・文化人類学教室発行、2016年3月14日、全158頁)がある。本研究に先立つ2013年調査と2014年調査の成果も含めることにより架橋前後の状況をとらえ、地域にとっての記録としての意義を持たせることもできた。

活動の課題

本研究は、架橋前後の短期間を対象としたものである。したがって、変化の兆しをとらえたに過ぎず、この兆しが今後継続するのか、一過性のものなのかについて長期的にみていく必要がある。とりわけ、人口減少の著しかった鹿久居島におけるみかん農家の観光客獲得への積極的展開が、後継者確保につながるのか。また、架橋予定のない大多府島と鴻島における地域医療・福祉や人口減少などの喫緊の課題についても考えていく必要がある。

  • 調査地域(フィールドワーク報告書より)

  • 「市道日生頭島線」開通記念セレモニー(2015年4月16日)

  • 学生企画の現地報告会・意見交換会を開催