瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

小豆島山岳霊場の自然景観についての文化地質学的分析

秋田大学 教育文化学部 川村教一

活動の目的

瀬戸内海の小豆島における「山岳霊場」の立地について、文化地質学的研究、とりわけ霊場立地の地質環境と宗教的活動との関わりの特徴を明らかにするため、現地調査により地形学的および地質学的調査などを行う。これによって、瀬戸内海の地域資源としての魅力の再評価や「山岳霊場」の成立過程などを自然環境と文化の相互作用の視点から議論するための基礎資料とすることができる。

活動の経過

調査対象を当初は小豆島霊場のうち「山岳霊場(小豆島霊場会の指定による)」としていたが、調査を進めるうちにその他にも同様の「霊場」や行場と推定されるサイトがあることがわかり、可能な範囲で調査対象に加えた。
調査方法は、「山岳霊場」に関する文献およびwebページ調査、現地踏査による地形・地質・水系などの観察やインタビューによるデータ収集である。現地踏査の期間は、2015年5月~2016年3月である。
調査地域は、香川県小豆島(小豆郡土庄町および小豆島町)のうち以下のとおりである。
土庄町:江洞窟、笠ケ滝、栂尾山、恵門ノ滝(以上、「山岳霊場」)、山之観音、護国寺(以上、「山岳霊場」以外の霊場)、大部赤嶽南西斜面中腹(推定行場跡)
小豆島町:佛谷山、西ノ滝、石門洞、佛ケ滝、清滝山、碁石山、洞雲山、隼山(以上、「山岳霊場」)、寒霞渓西方の(通称)窓~天恵(行場跡)
「山岳霊場」およびその他「霊場」へのアクセスは、舗装道路があるなど比較的良好であった。「霊場」内の行場の現地踏査について、「鎖行場」(ロープによる登攀ルートも含む)・「登り行場」や「覗き行場」のサイトは、調査時の気象条件(強風など)や急峻な地形であることなどから、すべての行場を踏査することはできなかった。

活動の成果

1.「山岳霊場」以外の行場跡の「発見」と確認
本調査によって、「山岳霊場」以外にも同様のサイトがあることが分かった。
土庄町大部字赤嶽付近にはかつて毘沙門堂があり、現地調査を行なったところ比較的大規模な行場跡であることが明らかになった。また、同様に寒霞渓西方の小豆島町神懸通に祠跡および行場跡があるとの情報をもとに、現地調査によってこれらを確認した。その他にも、小豆島町の西ノ滝付近および清滝山付近の山麓にも祠があるとの情報を得たが、現地踏査による確認には至っていない。
2.「山岳霊場」の地形・地質環境
江洞窟を除き、立地は凝灰角礫岩の急崖付近で一致している。また、「山岳霊場」には、凝灰岩層あるいは凝灰質の部分を中心に掘削したトンネルや洞窟が形成されている(笠ケ滝ほか)。本堂として使用されている洞窟は掘削により完成されたと推定される。このうち、江洞窟は花崗岩類、石門洞、洞雲山は凝灰角礫岩体内の節理付近の岩石の風化・マスウェイスティング・侵食により拡大した節理や、あるいは凝灰岩の差別侵食により形成された洞窟を掘削により拡張した可能性がある。「鎖行場」・「登り行場」は、凝灰角礫岩の急崖に設定されている。
3.「山岳霊場」以外の行場跡の地形・地質環境
立地は「山岳霊場」と同様である。例えば、護国寺の鎖行場は「山岳霊場」と同様である。山之観音の滝行場は、安山岩類の溶岩末端部の急崖にかかる滝に設置されている。
4.行場の文化地質学的考察
山林修行の行場として、土庄町肥土山の「高野山」のように単に山林内に設けられたサイトも少なくないが、荒涼とした表情を示す凝灰角礫岩の急崖基部および頂部に行場の多くが設けられていることが大きな特徴である。凝灰角礫岩に含まれている大礫サイズの亜角礫は岩石表面に突出しており、登攀の際に足場確保のために便利である(笠ケ滝ほか)。

活動の課題

小豆島の「山岳霊場」以外の行場の現地調査が必要である。特に小豆島南東部の洞雲山~碁石山付近のいわゆる「行者尾根」~大嶽の山頂付近、および寒霞渓西方は調査期間が不足し、現地調査を行えなかった。今後現地調査を行って、本研究の完成度を高める必要がある。また、小豆島と同様の地質学的環境下では、行場のような宗教的拠点が設けられた可能性がある。特有の地質学的環境が「山岳霊場」の発達に関係がある可能性がある。

  • 笠ケ滝( 香川県小豆郡土庄町) 典型的な地形・地質要素を持つ「山岳霊場」

  • 恵門ノ滝(香川県小豆郡土庄町) 小豆島北部の代表的な「山岳霊場」

  • 毘沙門堂跡付近の行場(香川県小豆郡土庄町)