瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

犬島製錬所(跡)の3Dモデリング復元研究(1)

国崎クリーンセンター啓発施設 鈴木榮一

活動の目的

本年の研究目的は、盛時の犬島製錬所を3Dモデルで復元するための基礎研究として位置付け、古写真や報文そして図面資料から抽出した限られた情報から、大正期の犬島製錬所の当時の姿を、三次元映像として描き出す試みである。これにより、盛時の製錬所の規模や構造を理解する手がかりができるとともに、犬島製錬所(跡)の持つ、近代遺産の価値を再認識することができる。

活動の経過

これまでの経緯は、前年度までの各成果報告書を参照されたい。今年度も引き続き島根大学・中野研究室の協力で、犬島製錬所の三次元化作業を継続し、三次元映像へ向けたデータ作成を行う。この成果をもって、犬島精錬所美術館において講演会・現場説明会を開催する予定であったが、福武財団との調整により、今後の課題として持ち越すことになった。本年度の研究においては、次の三つの方向性の活動を行う。
① 犬島製錬所の動静を、明治期からの鉱業レポートである『本邦鉱業の趨勢』よる帯江鉱山の産出データから分析する。
② 犬島製錬所の設計者・池田謙三について、出身地である秋田県秋田市に赴き、出身校に残された資料調査などを行う。
③ 本年度成果である3Dモデルを自在に操作し、犬島製錬所の古写真や配置図面と比較することにより、製錬所の設備配置や製錬工程の研究を行う。

活動の成果

① 帯江鉱山の産額は、大正2年の藤田組買収を契機に産出量の激増が見られ、犬島製錬所の拡張による増産(買鉱増や生産性向上)がその背景にあることが理解できる。なお、金や銀については、買鉱による帯江鉱山内の製錬と考える。この時期は第一次世界大戦により銅が暴騰し、各地に製錬所が設立され国内生産量もピークに達した。競争も激化するのであるが、藤田組上層部の判断ミスにより犬島製錬所は、大正8年操業停止に追い込まれた。
② 池田謙三の著作については、ほぼ網羅したが、その生い立ちなどについては不明であった。出身校である旧制秋田中学(現・秋田県立秋田高等学校)の『創立百四十周年記念誌』(H25.9)に掲載された記録により、生誕から逝去までの人生を追うことができた。藤田組の『創業百年史』の記載とあわせ、犬島製錬所の設計者・池田謙三の業績を知ることができた。
③ これまでの調査研究成果を集大成して、盛時の犬島製錬所を復元した3DCGを作成することができた。データのない製錬所外の島部分は、海と同じレベルになるなど、未完成ではあるが、当時の製錬所の構成を立体的に把握することが可能になった。
次のHPアドレスにて、成果の3DCGを用いたアニメーションを公開しているので、ダウンロードして参照されたい。(約156MB)
http://heikr.jp/data/inujima_3CGM.mp4

活動の課題

今後、これまでの成果を活用した、次の各事業を考えている。貴重な近代産業遺産である犬島製錬所跡を周知させ、犬島振興に資することを願うものである。
・ 2019年 犬島製錬所の盛衰~調査研究編の発刊
・ 2020年 犬島製錬所・資料集成の発刊
・ 3Dプリンターによる復元ジオラマ模型製作
・ 犬島製錬所資料公開WEBの開設

  • 『本邦鉱業の趨勢』より帯江鉱山の産額変遷

  • 池田謙三(秋田高等学校『創立百四十周年記念誌』)

  • 古写真と研究成果の比較