瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

中世国東半島沿岸海域における海域交流史の研究

名古屋学院大学 鹿毛敏夫

活動の目的

本研究は、西瀬戸内海の国東半島沿岸海域において、中世の港町や船、海運、流通、そして人々の生業や交流に関わる文献史料を現地に探訪し、それらをデジタル撮影して記録化するとともに、同地域の海域交流史の特質を明らかにすることを目的とした。

活動の経過

海に国境や県境のない中世の時代、「海は人を隔てるものではなく、人と人を結びつけるもの」と考えられていた。しかしながら、海に生きた人々の営みやその根底に流れる思想・信仰の特質を究明していく作業には、史料上に大きな困難を伴っており、その固有の構造は、現代の急激な社会構造の変動のなかで、近年一段と見えづらくなってきている。
本研究では、散逸の危機にある中世の文献史料(古文書や古記録等の紙に記された文字史料)を、半永久的に残すことのできるデジタルデータとして記録保存し、その遺物が語る歴史構造の特質を分析・考察することを第一の目的とした。
今回の調査では、国東半島沿岸地域の文献史料を撮影してデジタルデータ化し、また特に、中世の港湾として重要な機能を果たしていた杵築(大分県杵築市)と真那井浦(大分県日出町)については焦点を絞って、中世港町の立地環境について現地調査を実施した。

活動の成果

西瀬戸内海の周防灘に突き出る形をした国東半島沿岸は、地形的にリアス式海岸特有の多くの入江を有しており、各浦は中世の早い段階から海民を含む在地領主制が展開した場所である。沿岸の海の道は、中世瀬戸内海航路の幹線であると同時に、別府湾から豊後水道へと南下する東九州沿岸ルートとの結節点としての歴史的機能も有しており、散逸の危機にある文献史料をデジタル画像データとして記録保存することの意義は、同海域のみならず日本全体の歴史遺産の継承保全という意味でも大きなものと考える。
今回の調査対象とした国東半島沿岸海域は、現行の複数の行政区域にまたがるため、現地調査においては地元県および市町の教育委員会文化財担当課にも協力を依頼した。
特に、現在大分県所蔵となっている真那井の渡邊家文書は、戦国時代の水軍として活動した海の武士衆の活動実態を記録した古文書群であり、「警固船」での活動や、「舟誘(ふなごしらえ)=船の建造を示す極めて重要な内容を内包した文化財と言える。
また、杵築と真那井浦における現地調査では、明治期以降の干拓や堤防設営により港町の立地環境が大きく変化している様子がうかがえたが、古くからの寺社等を手がかりとすることで中世港町の様相をある程度まで推定復元することが可能である。

活動の課題

海と船、そして両者の結節点にあって人間の生産活動が集約される港町。これらがもつ固有の歴史的構造を有機的に関連付け、忘れ去られようとしている海に生きた人々の営みを、解明し、記録していく作業に今後も継続して取り組む必要がある。

  • 中世豊後水軍渡邊家の墓(大分県日出町真那井)

  • 浮嶋八幡社の仁王像(18世紀、日出町真那井)

  • 近世杵築城と船屋跡(大分県杵築市)