瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

『全国アマモサミット2016 in 備前』の開催

特定非営利活動法人 里海づくり研究会議 田中丈裕

活動の目的

アマモ場の再生を核とした里海づくりについて、漁業者をはじめ、研究者、市民グループや消費者、将来を担う学生や子どもたちなど、さまざまな立場や世代の人々が一堂に会し、地域を越えて全国的なネットワークを築くことで、活動の輪をさらに広げ、次の世代へ『豊かな里海』と、『里海づくりの精神』を引き継いでいく。また、これらの取り組みにより育まれる世界観を地域のブランドとして提唱し、全国にその魅力を発信することで地域の連携、活性化の推進に寄与することを目的とする。

活動の経過

30年以上前から、アマモ場の再生に取り組む備前市日生において『全国アマモサミット2016 in備前』を開催。初日には、研究者による沿岸環境関連学会連絡協議会ジョイント・シンポジウムを開催するとともに、里海づくりの一端を担う『流れ藻回収大作戦』を実施し、地元中学生や全国から集まった高校生、大学生、市民など約250名が参加した。2日目は、「備前発!里海・里山ブランドの創生~地域と世代をつなげて~」をテーマに3部構成によるシンポジウムを開催。参加者は約1,000名に上った。第1部では、日生中学校生徒による演劇「海に種まく人々」が感動を呼んだ。第2部では、全国各地の里海づくりに取り組むリーダーの活動報告に始まるパネルディスカッションを行い、多面にわたる情報と今後の方向性を共有した。第3部では、里海づくりが育む世界観を価値あるブランドとして発信していくためのパネルディスカッションを行い、大会宣言に結び付けた。3日目は、全国13校の小中高校生による『海辺の自然再生・高校生サミット』を開催し、約550名が参加。子どもたちの斬新な視点で取り組む活動発表の後、大会宣言をして幕を閉じた。また、地域の特産品を扱った食のブース展や、里海づくりや環境保全活動に関するパネル展示、つぼ網漁見学ツアーやアマモ場でのカヌー体験など、多彩な催しを展開し好評を得た。

活動の成果

「アマモ場再生」、「里海づくり」というキーワードのもと、世代、職種、地域を越えたネットワークの構築が図られ、さまざまな分野の人たちがそれぞれの立場で今後取り組むべき行動や活動について考え、意識とモチベーションを高揚させて方向性を共有し、環境に配慮する活動の輪がさらに広がった。この成果は約2,000名もの参加者を得て、採択された大会宣言に集約される。趣旨は次のとおりである。「海が健全であり続けるためには、森・里・川・海それぞれにおいて、人の営みを保ちながら、人々が暮らしを通じて適切に関わり、水を介した森里川海のつながりを維持することが肝要である。そして、これを守るには、里海と里山と“まち”が人と物の流れで結ばれることが大切である。人は、地球生態系のなかで生かされ、地球生態系は大きな物質循環の中で維持されている。水を介した森里川海の流れの終結点は海であるが、漁業という人の営みを通じて海から陸への回帰循環が生み出される。人は、自然の営みに頼らなければ生きていくことはできない。自然を守り育むことこそ、人が生きていくための道筋である。そのためには、全国のまち・学術・NPOのネットワークをさらに広げ、里海・里山・“まち”をつなげる“里海・里山ブランド”を確立し発展させ、自然と人の“共生”あるべき姿の実現を目指さなければならない」
この効果は備前市全域に波及し、多様なステークホルダーの間において共通認識の醸成と協調が図られ、地域が保有する資源を活かした“まちづくり”について今後の道筋が明確となった。そして、2017年2月6日、漁協、農協、森林組合、観光協会、自治会連絡協議会、行政、学術関係者等により構成される「備前市里海・里山ブランド推進協議会with ICM」が2017年2月に設立された。具体的な企画立案と活動を担う専門委員会も設置され、将来のあるべき姿を目指し、沿岸域総合管理【Integrated Coastal Management(ICM)】の手法を用いて関係者が集い、新たなステップを踏み出すことになった。

活動の課題

豊かな里海と里山を次世代へ引き継ぎ、アマモ場の再生を核とした里海づくりをさらに推進するとともに、里海と里山と“まち”をつなぎ、地域、世代、職種を超えた人々のつながりを礎に、将来を担う若者たちを応援し、自然と人の共生を目指して、『資源を活かした里海・里山ブランド』を確立させ、持続可能な取り組みを確実に実践し、国内外に向けて発信し続けていかなければならない。

  • 中学生によるアマモ場再生活動の演劇

  • 里海づくりに関するパネル展示

  • 会場一体となったパネルディスカッション