瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

画像ビッグデータ分析にみる瀬戸内国際芸術祭の観光効果

香川大学 経済学部 金 徳謙

活動の目的

本研究では、瀬戸内国際芸術祭が地域にもたらす効果を、①定量的分析手法を用いて地域への観光効果を測る手法を提示すること、②瀬戸内国際芸術祭が地域にもたらす観光効果を検証すること、を目的に、世界的に利用者が多い画像SNSサイト(flickr.com)に2010年から2016年まで香川県内で撮影され、掲載された画像データを収集し、撮影した位置や日時などの写真に関わる情報と居住地など撮影者に関わる大量の情報を分析した。

活動の経過

本研究の特徴は、従前の多くの研究が経済効果に着目しているのに対し、①空間的効果を測り、新たな観光効果を検証すること、②第1回瀬戸芸開催から第3回瀬戸芸開催までの7年間にわたる時系列データに基づくことにまとめられる。
まず、香川県を来訪する人々の行動を長期間にわたり収集する必要がある。そこで、記憶に残したい場所で写真を撮る観光者の写真撮影行動に着目し、写真が撮られた場所・日時、撮影者の居住地などの情報を収集した。
データの収集は、世界的に普及し利用者が多い画像SNSサイト(flickr.com)に香川県内で撮影され掲載されている7年間(2010年から2016年まで)の画像データをAPIを用いて行った。前述の①および②に加え、③SNS上の画像ビッグデータに基づいた分析であることも本研究の特徴にあげることができる。分析は、①地域内での観光者の行動を明らかにし、地域に与える影響を写真撮影のための空間移動、つまり観光者の空間利用の広がりの時系列的変化およびデュアルカーネル密度推定を用いて検証した。②来訪者の居住地を分析し、どこから来ているのかを時系列分析し、来訪者の居住地域の拡大を検証した。

活動の成果

本研究は前述した二通りの分析を用いて行った。その結果、以下の成果を得ることができた。
一つ目に、瀬戸芸のような大きなイベントが地域にもたらす効果測定に向けた新たな方法の提示ができた。
従前の研究では、経済効果の測定や訪問箇所の検証が多く見られ、分析のため、アンケートなどにより経済効果の推計や訪問箇所の確認を行う方法が一般的であった。それに対して、本研究では、観光者が実際に訪問した場所をもとに、訪問箇所を検証した。それにより、従前の研究と比較し、精度の向上に貢献できたことが、本研究の成果といえる。
二つ目に、観光者の行動による地域空間の利用の仕方の変化を検証した。
瀬戸芸の開催期と非開催期においては、開催期には会場を中心に多くの観光客が訪れていたことが確認できた。それに対して、非開催期には、来訪者が会場を含め、県内の各地を訪れていたことが確認された。一般的に、大型イベントによる集客は開催期中に限られ、イベント終了後には来訪者が激減するとされている。しかし、瀬戸芸の開催は、開催期はもちろん、その後の非開催期にまで及び、2010年第1回瀬戸芸の開催以降、多くの来訪者が県内各地を訪れていることが確認され、瀬戸芸による地域空間の利用の向上が確認できた。
三つ目に、来訪者の居住地域の多様化を検証した。
第1回芸術祭の開催以降、来訪者の居住地域までの距離の延伸および、多様化が進んでいることが確認できた。具体的には、第1回目開催のあとは欧米から、第2回目開催のあとはアジアからの来訪者が増加し、世界各地から来訪していることが確認できた。
本研究では、以上のように瀬戸芸が地域に与える空間的影響を検証することができ、瀬戸芸の新たな効果を証明する成果を上げることができた。

活動の課題

本研究では、インターネットの画像SNSサイトを介してデータを収集した。画像SNSの利用が若年層に偏っている現実をふまえると、このようなデータ収集の方法による調査分析を一般化するには限界があるといえ、データ収集の方法に工夫が必要とされる。

  • 瀬戸芸がもたらした空間利用の時系列分析

  • 瀬戸芸がもたらした来訪者居住地の空間分析

  • カーネル密度推定による観光者行動の空間的変化