瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

島の社会と家族、学校教育が若者の将来設計に及ぼす影響に関する研究-姫路市家島について-

滋賀大学 環境総合研究センター 柏尾珠紀

活動の目的

島の人口減少は、姫路市家島にとっても大きな危機感を持って受け止められている。しかし、当島では島で暮らし続けるために進学する若者が多数見受けられる。本研究の目的は、島の暮らしの再生を展望するために、家島の若者たちが学卒時においてどのような将来設計を立てているのか、それが形成される過程において島の地域社会や家族、教育現場はいかに影響を及ぼしているのかについて検討することである。

活動の経過

本研究は、町史や過去の調査報告書など家島にまつわる文献や統計データを分析しながら、島の高校生や若者、自治会役員氏、学校関係者の方々へヒアリングを行い進めた。また、島で開催される祭り、具体的には天神祭り(本島)、盆踊り、恵美酒祭り(坊勢島)や節分祭(本島、坊勢島)を参与観察することで、島の暮らしの背後にある「お付き合いの関係」や若者のコミュニティー、地域社会の機能などを考察した。
ヒアリングは、島の高等学校に在籍している生徒、小学生や中学生とその家族から卒業後の進路や人生設計について、卒業生やその家族からは現在の就業状況および将来の希望について、区長氏からは島の産業とその変化、島の若者の動向や帰島の状況についてお話を伺うことができた。島の高等学校の元学校長と現学校長からは、島の高等学校の役割や学生の進路選択に関する傾向の変化について、詳細なお話を伺うことができた。歴代のPTA会長氏からは、島の暮らしと若者の将来設計の変化や島の産業の変化についてもお話を伺うことができた。充実した調査を実施することができ、島の若者の就業行動に影響を及ぼす要因を分析するための数多くの手掛かりを得ることができた。

活動の成果

家島では本島と坊勢島に人々が暮らしている。島の主な産業は石材業とそれに関連する運輸業そして漁業である。家島本島には県立高等学校が立地しており、これまで生徒の多くは卒業時に島で就職することを希望した。だが、近年は進学者が就職者を上回っている。生徒がなぜ島での就職を希望するのかについて聞き取り調査をしたところ、生徒の将来設計に島の産業や家業が大きく影響を及ぼしていることがわかった。島には自営業者が多く、長男は全員が家を継ぐ意思があると述べた。運輸業や造船業が不振である現在、希望どおりの就職は困難である。そのため、家業の専門性を高める資格、またあるいは、家業を多角化できる資格の習得を目指した進学が増加した。就職では通勤可能な姫路市で就職する者が多数を占めた。このような離島を想定しない若者の人生設計は家族で共有され、就職の際に縁故で便宜が図られた。高等学校や島内外の知人が若者に通勤可能な就職先を紹介することも多く、転職による帰島もあった。つまり、若者が島で暮らし続けたいと望む場合、それを支援する多様な社会関係が島の社会にはあるのである。
また、島では高等学校卒業時まで同じ仲間と過ごすことが多く、男女ともに緊密な関係のグループが複数形成される。高等学校を卒業すると若者は、島の祭りの一部を任されるなど地域社会の担い手として育成される。仲間と社会参画できることは、若者が暮らし続けるために重要であると考えられた。産業は島の若者が将来設計をする際に多大な影響を与える。だが他方で、離島せずに高等学校教育まで受けられることや、地域社会のなかに若者を支援・育成する体制があることも若者の将来設計に影響を与えていると考えられた。調査を実施したことで、どのような条件が整備されることで島の暮らしが再生産されるのかを考える糸口をつかむことができた。

活動の課題

今後は、島の暮らしの再生産を支えている島外の条件を解明するため、島民が島外に保有しているネットワークやコミュニティーの機能、それらの有効性を考察することを試みる。これらを検討することが島の持続的な再生産を展望するための手掛かりになると考える。

  • 家島の人口及び世帯数の推移出所)国勢調査

  • 坊勢島の恵美酒神社祭り

  • 漁業の島である坊勢島の漁港風景