瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

既存建築物を活かした交流拠点醸成の研究

関東学院大学・東北芸術工科大学 日髙 仁・西澤高男

活動の目的

島嶼部や農山漁村で著しい高齢化や人口減少が続くなか、消失の危機にある地域社会を維持するためには完全移住だけではなく、2拠点居住など交流人口の増加を目指すことも重要となりつつある。既にある施設や観光拠点について包括的に情報提供できる交流拠点と、瀬戸内に多く残存するが、空き家となりつつある古民家を再生活用した滞在拠点づくりについて、地域と連携した持続的な協働体制の枠組みを醸成してゆくことが本研究の目標である。

活動の経過

本研究では現地活動協力者と共に、滞在型交流拠点運営における持続的協働体制確立を実践的に検証するため、研究者の所属する関東学院大学・東北芸術工科大学を中心に地域内外から参加者を募ってワークショップを実施した。弓削島では、これまで助成を受けた研究や活動を通じ、立ち上げた交流拠点「海の駅舎」活用のための社会実験を実施。夏のヨットミーティングとふるさと夜市にあわせ、「海の駅舎」の紹介と地域での活用を促すため、施設内外を広く使ったウェルカムパーティーを実施。春には、学生が滞在し、地域の方々が「海の駅舎」でやってみたいことをテーマとしたヒアリングと映像制作、上映会を実施。いずれのイベントにも来訪者や地域の方々が多数集まり、交流の可能性を提示した。大三島では、空き家活用の調査や研究を通じて交流を続けてきたNPO法人「しまなみアイランドスピリット」と共に、古民家の清掃と活用実験を行った。残存物で溢れていた空き家を調理飲食や滞在が可能なまでに清掃し、整備。地域の方々や古民家の所有者、利活用に興味のある方を招待したオープンハウスと食事会を実施した。加えて、いずれの活動も5日~10日間ほどの合宿形式で実施。受け入れ体制についても検証した。

活動の成果

本研究では、これまで関わってきた二つの場所での活動を通じて、交流人口拡大のための、場所の持続的な運営や受け入れ態勢の確保、さらに都市部との協働体制や人的交流の維持などの仕組みづくりを、実践的に研究した。まず、これまでの助成で実現できた「上島町ゆげ海の駅舎」は、既にある滞在や観光の施設と連携した地域密着型の交流拠点を目指しているが、指定管理者による運営は必ずしも目的に近づくものではなかった。このような中で、潜在的な可能性を顕在化し、場所の良さや親しみやすさをご理解いただけるように努めた。ワークショップ参加者の方々の反応を見る限りでは、その目的は達成されたと考えている。新年度からは指定管理者が替わる予定で、ワークショップの成果を継承しつつ、今後より良い運営がされるよう、引き続き連携を図っていきたい。また、大三島では、景観上重要だが扱いの難しさからあまり活用されない古民家の空き家について、実践的な検証を行った。大三島のNPOしまなみアイランドスピリットでは空き家バンクを運営して移住促進を進めてきたが、これまでの実績は比較的最近建てられ、そのまま入居可能な新しい物件が多く、築100年を超える古民家が多く存在するのに活用できないことが課題となっている。彼らが「大物」と呼ぶ古民家は、移住希望の多い退職した夫婦などが活用するには荷が重く、残存物が多く荒れている状況を見ると手がかかることばかりが思い浮かび、活用のイメージが湧きにくいのが原因だという。この状況を変えるモデルケースとして清掃・整備を行ったが、オープンハウスに訪れた方々や古民家の持ち主の方の感想を聞くと、空間の良さが伝わるようになったとのことで、今後の利活用に期待が持てる成果となった。最後にワークショップ中の滞在については、地域で学生が泊まりやすい受け入れ態勢をとっていただいた。このことも、今後の交流継続に大きな助けとなった。

活動の課題

研究を通じて運営や交流の持続的な協働体制について知見を得ることができたが、今後経済的に自立した仕組みを作っていくことが大きな課題であると考えている。例えば「海の駅舎」での収益性のある着地型コンテンツの作成や、改修した空き家の現地協力者による体験型ゲストハウスとしての運営、そこからの物件販売などが考えられる。また、本研究で得た成果と課題を広め共有するための記録集を製作中であり、近いうちに発行したい。

  • 交流拠点「海の駅舎」活用の可能性を拡張するためのイベントを実施した(愛媛県上島町弓削島/撮影:新良太)

  • 地域のNPOと共に、残存物で溢れていた空き家を調理飲食や滞在が可能なまでに清掃・整備した(愛媛県今治市大三島)

  • 整備した古民家で、地域の方々やその古民家の所有者、利活用に興味のある方などを招待し、オープンハウスと食事会を実施した(愛媛県今治市大三島)