瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

離島での集落景観づくりと島活性プログラムの開発-近年の男木島への移住の現状とその要因の調査分析-

安部良アトリエ 一級建築士事務所 安部 良

活動の目的

昨年度までに継続してきた伝統的な集落景観の保全を基礎としながら、①男木島へ移住してきた理由の調査、②伝統的な集落景観の中で現代生活にもふさわしい魅力的な景観の育み方の検討、③瀬戸内海離島における移住活性と集落景観の育成の方法論を導き出す。上記三つを2017年度調査の基本目的とし、住民参加による島活性を推進しながら、これまでの調査で蓄積された情報を島民と共有する。

活動の経過

本活動は2010年から継続しており、男木島集落全体の家屋の実体調査を中心として、空き家などの実測調査を行っている。2014年には文化的景観の選定や申請等を念頭においたより詳細な調査を開始し、2015年に集落の土地利用状況を再調査した。景観に重要な家屋の詳細調査の結果も盛り込み、2016年には『男木島の魅力とみらい』という冊子を自主制作した。
当該研究活動と平行して、安部良アトリエでは離島、遠隔地、過疎地域における複数の地域活性プロジェクトが進行中であり、それぞれの地域の住民や移住者同士を繋ぐネットワークづくりの基盤が整いつつある。
今年度は2010年からの本調査の協力者でもある九州大学の谷正和教授と相談し、近年男木島への移住者が飛躍的に増加した原因を調べ、他地域での移住促進の方法論へと繋げられるよう、要因を抽出することを研究調査の中心とした。

活動の成果

・移住者へ個別にアンケートを行い、男木島に移住をした経緯や移住地に選んだ理由などを詳しく聞き取りをした。
・移住者が入居した住宅の調査を行い、入居後の増改築の程度や方法などを写真で記録し、集落景観に対する影響を観察した。
・移住者のDIY等による住居改修に対し、建築家としてアドバイスや情報提供を行った。
・伝統的な男木島らしい集落景観を引継ぎながら、いきいきとした生活空間を作り出すための研究会を、男木島生活研究所と協同で発足し、移住者を中心に会合を重ねた。
・集落の土地利用状況や最新の人口推移を調査し『男木島の魅力とみらい』改訂版を発行した。
学校があり子育てができる環境、田舎でありながら都市(高松)まで1時間以内で行ける立地条件、車がなくても生活ができる利便性等の他、移住先駆者の存在や、自ら島を変革していけるという期待感などが移住理由として見受けられた。
今年度もいくつかの家屋が取り壊されたという事実があるものの、移住者が空き家を借りたり買い取って入居したことによって、土地の利用率は上がっている。また、積極的な増改築によって状態が改善されている家屋も見られる。母屋は比較的現状を保ちながら、農作業や漁協の作業に使われていた納屋や倉庫が、店舗、カフェ、レストランなどそれぞれの用途にあった機能へと積極的に増改築される傾向がある。移住者および島民がお互いに助け合いながら工事を進めることで、同一の材料や工法、デザインが繰り返され、増改築された家屋同士に緩やかな類似性が生まれている。

活動の課題

男木島を過疎対策のモデルとするために、移住を促した要因を他の地域に適用できるよう取り組んでいきたい。また、瀬戸内地域において移住者同士を繋ぐネットワーク構築を進め、情報交換や地域の活性化について協議する基盤を形成する。最新の情報を盛り込み、『男木島の魅力とみらい』に続く第2冊目の冊子を編集・発行する。

  • 移住者により増改築された家屋

  • 男木島集落景観勉強会の様子

  • 移住検討~移住時期を示したグラフ