瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

小豆島の民俗宗教行場の文化地質研究

秋田大学 教育文化学部 川村教一

活動の目的

昨年度の研究により、小豆島における「山岳霊場」の立地について、山岳寺院のほとんどすべては内陸部の山腹に位置しており、地形学的・地質学的には火山岩類の基底部付近にある急崖地に設置されていることが明らかになった。本研究では「山岳霊場」の行場の地形学・地質学的調査を現地に赴いて行い、行場の立地について自然環境の視点から明らかにし、小豆島の民俗宗教と自然環境の関係を議論する基礎資料とする。

活動の経過

研究は文献調査、インタビュー調査、野外調査、データ分析を行い、成果公表を実施した。
文献調査は香川県の修験道の行場・山間地の民俗宗教施設に関する図書(「小豆島名所図会」ほか郷土資料)を入手した。これらに掲載の図版などから、江戸時代後期から主要な山岳霊場の地形はおおむね現在と同様であることを確認した。
インタビュー調査は「山岳霊場」のうち、笠ケ瀧、瀧水寺、碁石山で行い、寺院関係者から近年の行場の利用実態を聞き取った。野外調査では行場を現地で確認するとともに、行場付近の地形や地質の調査を実施した。なお、行場のうち鎖行場、難行場、滝行場などには露岩が確認されたが、比高10mを超える急傾斜地における地質調査は通常の徒歩による確認では著しく時間がかかったり、あるいは遠望による岩相の観察では詳細が不明であったりした。このため、傾斜地を登攀しながら露岩を動画撮影する方法、および無人航空機を利用して垂直な崖に露出する岩の岩相を画像で記録する方法を開発し、地形・地質調査を充実させることができた。
以上の調査結果をもとに行場の地質柱状図を作成し、行場の立地環境を地形・地質学的な観点から分析を行った。

活動の成果

鎖行場(ロープを用いる行場も含む)は笠ケ瀧の東方、恵門の滝の南方、清滝山のすぐ東方にある。また、調査の初期には仏ケ瀧のすぐ南方にもあったが、2018年には確認できなかったことから最近撤去された可能性がある。これらの行場と地質との関係については、いずれも中新統小豆島層群の凝灰角礫岩・火山角礫岩の急崖に設置されており、岩石中に含まれる角礫が足場となることで登攀が可能な場所であった。一方で、花崗岩類や安山岩類の露岩には鎖行場は見られない。これは岩石が凝灰角礫岩類と比べ平均的に細粒の粒子から構成され、かつ均一で、足場かけが凝灰角礫岩ほど容易でないためであると思われる。
難行場については、修行を行っている現場をほとんど確認できなかったので、石像(不動明王像・権現像など)や祠が設置されている地点を難行場と仮定する。これらは笠ケ瀧の北方、恵門の滝の南方、清滝山の北方、碁石山の東方、洞雲山の東方にあり、いずれも小豆島層群の凝灰角礫岩・火山角礫岩類の急崖上の平坦面あるいは尾根に位置している。一方で、花崗岩類や安山岩類には鎖行場は見られない。花崗岩類は標高が低い位置なので難行場に不向きであると考えられるが、凝灰角礫岩よりも分布する標高の高い安山岩類の急崖にも難行場は知られていない。これは凝灰角礫岩と比べ安山岩類は登攀が困難なためであると思われる。
これらの研究成果は、平成29年度日本地質学会年会(愛媛大学)、文化地質学分科会および第1回文化地質研究会(大谷大学)で発表した。また、筆者のWebサイトで公表した。川村(2016a,b)は、香川県小豆島における「山岳霊場」の立地について、中新統小豆島層群の凝灰角礫岩の急崖基部および頂部に行場の多くが設けられていることを明らかにした。小豆島層群と類似の地形・地質環境は、香川県中部の五色台付近の中新統讃岐層群にもみられる。本発表では、五色台地域の山岳霊場の地形・地質学的環境を明らかにしたうえで、小豆島地域の「山岳霊場」と比較する。

活動の課題

小豆島に見られるような特有の地形・地質環境(安山岩類の急崖、急傾斜地の凝灰岩類・凝灰岩類)が近世以前の山岳霊場の発達に関係したのかを立証するためには、瀬戸内海の他地域のデータも必要である。このため、香川県「本土」における他の山岳の霊場である八栗五剣山、五色台、城山ほかの行場の現地調査が求められる。

  • 無人航空機による行場の岩石の調査

  • 画像③の位置図(行場を持つ「山岳霊場」)

  • 地質柱状図(☆印が「山岳霊場」の位置)