瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

昭和戦前期の瀬戸内海調査資料の地域資源化

横浜市歴史博物館 羽毛田智幸

活動の目的

本研究では、神奈川大学日本常民文化研究所が所蔵する昭和戦前期の16ミリフィルム(アチックフィルム)や写真について、文化資源としての位置付けや資料化方法・地域還元に関しての研究を進めている。これは、2015年度に貴財団より助成をいただいた「アチックフィルム『塩飽1&2』の被写体分析と映像資料の地域還元に関する研究」をさらに深化させることを目的としている。

活動の経過

本研究では2015年度に岡山県の八浜、香川県の与島・男木島・女木島にて現地調査を行った。その際には現地の方々に写真や映像をご覧いただく機会などを設けてきたが、今年度は高見島・佐柳島・伊吹島に関する被写体調査を中心に活動を行った。
主な活動である現地調査は、まず9月10~11日の日程で、多度津港から高見島・佐柳島へと渡った。高見島では「除虫菊の家」を運営されている菅原優子さんと一緒に島内を巡り、アチック写真をもとにかつての島の様子についてうかがうことができた。佐柳島でも長崎港での写真の同定を行うことができた。
冬季は3月6~7日の日程で現地調査を行い、観音寺港より伊吹島へと渡った。こちらでは伊吹島研究会代表の三好兼光さんより、アチックフィルムに写る「伊吹島産院」の跡を中心に同島の様子をうかがった。また、同じ瀬戸内海文化研究・活動支援助成をいただき活動する仲間と交流することができたことも大きな収穫であった。

活動の成果

本研究のもととなる、映像や写真が撮影された調査では、各島の滞在時間が短く、ピンポイントで撮影された写真や映像であるため、80年以上が経過した現在ではその被写体の同定に困難を極める。今年度、調査を行った各島での主な成果は以下の通りである。
アチック写真【アー100-18】は少ないながらも高見島沖から撮影された島の遠景である。島への到着直前か出発直後に、調査団一行が乗船した福武丸より撮影されたこの写真には、低い波止の向こうに並ぶかつての浜集落や、山の中腹まで広がった白い除虫菊の畑が確認できる。比較的同定しやすい写真であり、山の利用など、島民の生活が大きく変わったことを今に伝えてくれる。
また【アー100-12】は、写真裏面や台紙に撮影場所の記載がなかったものであるが、佐柳島長崎港での撮影であることが調査の結果判明した。紙焼きした写真を繋げたパノラマ写真には、波止の上からの港の様子と長崎集落の家並みと山の利用風景が収められているが、かつての港の様子を窺い知ることができる貴重な写真であることがわかった。
映像の同定でも大きな成果が得られた。伊吹島の産院は緑川洋一氏による写真が知られているが、戦前期の撮影日時(昭和12年5月18日)が判明した映像としては、アチックフィルムが唯一のものではないだろうか。被写体となった産院の縁側の礎石や庭に植えられたユーカリの位置など、短い映像ではあるが同定を行うことができた。

活動の課題

2015年度から引き続きの課題ではあるが、80年という歳月を経て、島々の様子は様変わりしている。かつての映像や写真に写る道や人びとを特定することは困難を極めている。今後もそうした状況は変わらないと考えるが、現地調査および関連資料調査で収集した情報を、できつつある現地の方とのネットワークで共有してゆくことが次に繋がる。

  • 昭和12年の佐柳島長崎港 アチック写真【アー100-12】

  • 現在の長崎港の様子。本調査にて同定することができた被写体