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瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ
活動の目的
明治期から昭和期にかけての真鍋島を生きた船大工、道西喜代吉氏。その半生において、氏は島に関する一連の記録絵画集を描き遺した。細密な筆致で描かれた味のある画風、人物の息づかいをも感じ取れるような血の通った表現は、市井の芸術作品としての価値を存分に高めている。また、当時の真鍋島の生活風景や歴史の一場面などが克明に活写され、詳述されており、第一級の貴重な民俗資料ともなっている。
しかし現在、真鍋島内における「道西喜代吉氏画集」の認知度は決して高いとは言えない。そこで、当該画集を広く地域住民に周知し、その価値をコミュニティ内で共有するため、真鍋島歴史文化研究会を中心に慎ましやかな展覧会を企画した。
活動の経過
真鍋島公民館からの依頼で、道西喜代吉氏の親族が散逸していた画集の一部を収集。笠岡市教育委員会が真鍋島内の明鏡山圓福寺所蔵原画とあわせて電子化・パネル化した。真鍋島歴史文化研究会としては、笠岡市から提供された4組の画帖(それぞれ33頁、20頁、30頁、26頁)のデジタルデータを所有している。
展覧会開催に向けての準備過程では、現地踏査や地域住民からの聞き取りなど、作品の意味内容に関するフィールドワークを重視した。特に作品に描かれている場面の同定には、文献リサーチや座談会といった手法も適宜組み合わせながら多くの時間を割いた。
他団体との協働にも力を入れた。岡山商科大学経営学部のゼミには、展覧会についてのアイデア出しから会場設営、会期中の補助に至るまで多岐にわたるお力添えをいただいた。また、真鍋小・中学校とも連携し、島の子どもたちが本プロジェクトに参画。笠岡市地域学校協働活動の一環として郷土史・郷土文化ワークショップをおこない、会期中には手作りの「真鍋島おすすめスポットマップ」と42年の伝統を誇る「版画ふるさとカレンダー」をサブ展示した。
活動の成果
2022年10月、延べ14日間にわたり真鍋島内2箇所の会場にて「道西喜代吉氏画集展覧会」を開催した。
真鍋島歴史文化研究会が把握している総数60点以上にのぼる道西氏の作品は、描かれている主題から「生活・日常」、「地理・建造物」、「祭り・行事」、「歴史・伝承・伝説・言い伝え・語り」の4カテゴリーに便宜的に分類できる。その中から25作品を厳選し、各画が表す場面の現在の様子を切り取った写真とともに、「真鍋島の過去と現在の対比」というテーマで公開展示した。また、地域住民有志による協力のもと、会期中の3日間で島の郷土料理を来場者に無料提供した。
本展の総来場者数は365人。その内訳は真鍋島住民142人、笠岡市内(真鍋島を除く)から69人、岡山県内(笠岡市を除く)から81人、他都道府県から73人であった。会期前の準備段階から会期中を通して新聞やTVなどの各種メディアに取り上げられ、会期後も学会や市民イベントで「道西喜代吉氏画集」についての発表をおこなうなど、精力的かつ丁寧に情報発信に取り組んでいる。
各方面より道西氏の画集に関する示唆的な知見が多数寄せられ、学術的にも重要な情報が蓄積した。そうして本プロジェクトの総括たる『真鍋島のみた記憶(ゆめ) 道西喜代吉氏画集展覧会 活動アーカイブ』の発刊に至った。
本活動を通じて実感したのは、真鍋島の人たちの「道西喜代吉氏画集」に対する関心の高さである。それはひいては郷土愛とも呼べるものであり、島民に質問を投げかけると皆さん嬉々として往時の暮らしぶりを話して聞かせてくれた。そして井戸端会議よろしく会話が流転し、時間も忘れて昔話に華が咲く。そうしたコミュニケーションの環の醸成、「ふれあい」こそが本活動の意義があると感じる。
活動の課題
本プロジェクトを基点として、今後は次の各事項に取り組んでいきたい。
■「道西喜代吉氏画集」の学術的な追究
■「道西喜代吉氏画集」の持つ文化財としての価値の深化
■「道西喜代吉氏画集」の観光分野への応用
日本全国の他の過疎地域同様、ここ真鍋島でも急速に高齢化が進行している。地域内における社会的紐帯を維持することが年々難しくなってきている。私たちの取り組みが、失われつつある「皆が集い語り合える場」を再創造する端緒となることを期待する。
道西氏の作品「大蛇ト大タコ之合戦」 真鍋島歴史文化研究会
展覧会会期中の様子(本浦会場)
地元有志による郷土料理の調理風景