瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

小林和作旧居再起動計画

NPO 法人尾道空き家再生プロジェクト

活動の目的

2020年の段階で解体の危機に直面していた「小林和作旧居」(1933年築)を保存し、然るべき活用方法を提案することで、この地域にとって重要な文化的資産を次世代に継承することが、本活動の目的である。
「小林和作旧居」は尾道旧市街の長江エリアに立地し、尾道を代表する画家・小林和作が40年にわたりアトリエ兼住居として使用した文化的・建築的にも重要な建物であるが、駅から遠い斜面地に立地し、中長期的保存活用には多くの課題も抱えている。NPO法人尾道空き家再生プロジェクトメンバーを中心に、建物の修繕をしつつ、今後の活用に向け、専門家を交えてアイデアを練り上げていく。その過程でトークイベントやワークショップなどを開催。また、並行して、この建物を調査し、建築的魅力を掘り下げや画家小林和作の業績についても再考していく。

活動の経過

まず、和作旧居の周辺環境整備と清掃作業を行い、5月には画家・小林和作についての理解を深めるために2回のトークイベント「小林和作を旧居で語る。旧居を語る。」を開催。  
その後、8月に尾道市が開催した小林和作旧居活用事業者選定委員会によるプロポーザル審査が開催され、NPOとして当法人がプレゼンテーションを行い、審査の結果取得することが決定。その後、取得手続きを進め、11月上旬には和作ウィーク2021「小林和作をめぐる。」を開催。和作旧居を中心に和作ゆかりの場所である小野鐡之助邸、高橋家の3カ所を同時公開した。期間中、トークやワークショップ、展覧会やツアーなども開催。トークでは建築家・渡邉義孝による和作旧居の建築的見どころ解説と新田悟朗による空き家再生の事例紹介を行い、ワークショップ「アイデア編」では東京工業大学真野研究室がファシリテータとなり活用方法を参加者とともに考えた。ツアーは2回開催し、小野鐡之助邸、高橋家、小林和作旧居の3箇所を巡った。3軒それぞれの建築の特徴や関わりのあった人物について紹介しつつ、エリアの歴史的背景や、地形・景観的特徴を解説した。関連して和作マップと人物相関図を作成し資料として配布した。
その後、環境整備、清掃を進め、建築の再生ワークショップを2月に開催。
また12月より小林和作について研究し、和作旧居の活用方法を探る「和作研究会」を開始し、以降毎月実施している。

活動の成果

「小林和作旧居再起動計画」で行なった試みの成果を和作旧居のハード面、ソフト面および広域での影響の3点から述べる。

●ハード面
プロポーザルで小林和作旧居をNPOとして取得することで、建物を取り壊しの危機から救出し、再起動計画の実現に向け、具体的にスタートを切ることができた。各イベント前には建物の応急処置と、清掃、周辺の環境整備を行い、和作旧居の持つ魅力をより引き出すことができた。建築の再生ワークショップでは数寄屋大工を講師として迎え、大学生を中心とした参加者と共に床下補強と仕上げを行い、損傷の大きかった入口付近の補修を完了することができた(参加者:12人)。

●ソフト面
トークイベント「小林和作を旧居で語る。旧居を語る。」ではこれまでの再生事例から再生方法のヒントを得ることができ、立場の違うゲストの話により、小林和作の人物像と芸術について新たな側面から知る機会になった。(参加者:5月4日19名、5月16日15名)和作ウィーク2021「小林和作をめぐる。」では和作旧居、小野鐡之助邸、高橋家の3カ所を同時公開し、普段内観できない小林和作ゆかりの邸宅内部を見学し、尾道の文化的土壌を振り返る貴重な機会となった(参加者:約300人)。関連のトークでは和作旧居の建築的魅力に対する理解を深め、ワークショップでは一般参加者とともに将来の再生活用方法を考え、再生計画を進めていく上で参考になるユニークな提案がなされた(参加者:18人)。また、ワークショップ開催を契機に「和作研究会」が発足し、継続的にアーカイブ作業と和作についての研究や意見交換を行っている。

●広域で
小林和作の親友、小野鐡之助邸が建てた病院建築「小野鐡之助邸」には小林和作壁画が残され、モダンな建築意匠も魅力的であるが、この建物も取り壊しの危機に直面していた。この度の一連の企画を通じて、その危機を脱し、今後の活用について考える見通しが生まれた。

活動の課題

2022年度は、ワークショップ「アイデア編」で出た提案を参考にしつつ、将来的な活用についてのケーススタディとして多彩な仮活用イベントを行う。一連の実験を経た上で計画の具体化を図り、その内容を踏まえ、損傷の著しい箇所の修繕を中心に構造補強や水回りなどの改修を行い、中期的に自立した運用が可能になる基盤を整える。11月には恒例行事として再び「和作ウィーク」を開催。和作旧居のみならず、ゆかりの場所のリサーチや整備も行い同時公開。なかた美術館と連携し、小林和作蔵書のリスト化作業、作家リサーチも推進。和作旧居を起点に、尾道の失われゆく建築や街並み、忘れ去られようとしている文化的状況についての継承について、ハード・ソフト両面から取り組んでいく。

  • 小林和作旧居建物についてのレクチャー

  • 小林和作旧居でのトーク

  • 小林和作旧居現場ワークショップ