瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

芸予諸島に残存する古民家を住み継ぐための持続的・実践的活動

日髙仁/関東学院大学+西澤高男/東北芸術工科大学

活動の目的

愛媛県芸予諸島周辺では、他の島嶼部と同様に人口減少、高齢化と、それに伴う空き家の増加が問題となっている。本活動では、こうした空き家や空きインフラを活用のイメージが湧くところまで手入れをして公開することにより、居住や活用を希望する方への橋渡しをすることを目指す。特に、多くの手入れが必要な古民家や、その規模故に扱いづらい公共性の高い建物など、住みこなしたり活用したりする難易度は高いが、地域固有の文化を継承したり、ランドマークとなってきたりした空き家が、瀬戸内の気候条件の良さ故に多々残存する。こうした建物の空間が持つ潜在的な魅力を発掘し、その要素が顕在化する設えをした上で公開し、その体験を移住や利活用を希望する方や地域の方々と共有することで、これらの空き家が活用され、住み継がれてゆくきっかけを作り出すことが本活動の目的である。

活動の経過

これまで助成頂いた活動の中で関係を築いてきた上島町弓削島と今治市大三島で活動を実施した。
大三島では当初、集落内にある古民家での活動を予定し、ご協力いただいている現地NPOの方々と共に準備を進めてきたが、状況の変化により当該建物での実施を見直し、地域のランドマークだった島内の別の物件をご紹介いただいた。架橋前は本四航路の経由地だった宗方港の側に建つ「かわかみ旅館」は、かつて今治などから大勢が訪れて賑わったが、交通体系や需要の変化によって廃業し空き家となっている。建物自体は綺麗に維持されており、目の前に入り江の海が広がる好立地であることから、活動の対象とすることにした。特に旅館前の海に浮かぶ桟橋には無二の魅力を感じ、ここに海面に触れることのできるほど海に近い「海上カフェ」を仮設。そこでの体験を共有して、活用に向けた可能性を探った。
愛媛県上島町では、これまでの活動で実現した交流拠点「上島町ゆげ海の駅舎」を、住民と来訪者相互の交流の場として更に活用していただき、移住促進にもつなげるための活動を検討。日々この場所を放課後の学習スペースとして活用している高校生たちにヒヤリングを行い、一番希望の多かった日除けカーテン作りを進めることとなり、大学時代に弓削島で活動して以来島に関わり続けてきた卒業生が中心となって、映像制作やカーテン作りワークショップを実施。また、施設の利用実績が認められ行政から設計当初の構想にあった前面道路や緑地などを一体活用する外構計画を打診され、整備の準備を進めている。

活動の成果

芸予諸島地域では、これまでに交流のある現地の組織や自治体などと連携した、複数の事案がある。いずれも空き家や廃港などの休眠インフラの活性化や、潜在的な固有の地域資源の魅力を顕在化させ、集落や産業を活性化させることを目指している。新型コロナ感染症拡大により時事刻々状況が変化する中で、現時点で実施可能なことを柔軟に、実践的かつ持続的に継続することを目標として活動した。
大三島では2019年度、廃業して久しい「かわかみ旅館」とその前の浮き桟橋での空き家活用のための社会実験「海の縁側」を展開した。現在、旧「かわかみ旅館」は大三島在住の方が購入し、福祉施設としての活用を検討したが中断した。引き続き地域の方々のための活用を模索しているとのことで相談を受け、2020年11月に訪問し将来の展望をお聞きし、2021年3月、宗方港周辺の島への航路や港、集落のリサーチを実施。2022年3月に改めて話し合いを行い、地域内外の方々に向けて開かれた施設として、海辺の別棟倉庫と浮き桟橋も含めた活用する方法について、引き続き協働することとなった。感染状況の好転の機会を見て、社会実験をしながら進めていきたいと考えている。
弓削島では、これまでの活動に関わった大学の卒業生たちを中心として、これまでの活動の成果として2017年3月に竣工した「上島町ゆげ海の駅舎」を拠点とした交流と活用促進を継続。2020年11月、島の高校生たちと、イングランドのバンド・キャラヴァンの元メンバー、デイヴ・シンクレア氏の協力により、海の駅舎のプロモーション映像を撮影、年末より配信しており、引き続き製作を予定している。また、2021年3月には、上島町より施設の前面道路と緑地を活用した「海の駅前広場」整備のための社会実験の実施について相談を受け、企画提案を元に上島町長・町担当者と打合せと現地確認を実施。道路使用など具体的な課題についての協議を行った結果、最初の段階として前面道路を廃止して海の駅舎と一体的に使えるよう、議会決定がされた。2022年3月には改めて行政や、現在施設を運営している方々と打合せを行い、コミュニティビルドによる住民参加型の「海の駅前広場」本整備を進めるために、社会実験や設計・施工手法の検討などの準備を進めている。

活動の課題

私たちはこれまでの一連の活動で、潜在的な場所の可能性を社会実験により顕在化し、思い描く理想的な将来像を地域の方々と共有し、ご意見をいただきながら修正していく中で「みんなで空想を共有し、『欲しかった場所』をつくる」ことを目指してきた。整備と運営、現在大三島や弓削島では複数の事案がありそれぞれ活動の段階は異なるが、これからも実践的かつ持続的に考えていきたい。
また、これまでの空き家活用やそのスタートアップのための活動を通じて得られた知見を役立てていただけるよう、休眠インフラ活用の手法「瀬戸内メソッド(仮称)」を成功体験、失敗体験も含めてとりまとめ、公開するための準備を進めている。併せて、各地での同種の活動へのサポートも、進めてゆきたいと考えている。

  • 海の駅舎プロモーション映像撮影の様子

  • ライブ配信を通じて外部空間との活用をPR

  • 高校生たちの協力による海の駅舎の配信映像