瀬戸内海地域振興助成成果報告アーカイブ

豊島 KIMAMORI▲Work2 ~豊島の医療福祉文化史料アーカイブ & 検証事業~

小澤 詠子

活動の目的

かつて「福祉の島」とも呼ばれた豊島の現在と未来に必要な、医療上の重点要素・福祉的活動を考察・実践・検証し続けることを通じたケアを目的とし、古民家A(以下A家)での豊島関連史料アーカイブと回想療法・世代間交流を主たる手段とする。文献蒐集・聞書き調査で捉えた豊島の民俗を医療福祉的視点で捉え直し、その成果物(分析・編集・デジタル化)が触媒となって生まれるケア的「瞬間」や交流空間をうみだす。
交流主体は、島民のほか島外から帰省中の家族や移住者、島内高齢者福祉・保育事業者及び利用者とし、タッチケア・グリーフワーク実績のある看護師がコーディネートする。プロジェクトベースの随時チームを組み、学識者等の応援も得る。改修では、A家の元の姿を尊重しつつ乳幼児・高齢者にとって低リスクで安心して落ちつける空間を目指し、塗装材の厳格な選定や歴史的什器発掘に努める。

活動の経過

コロナ禍で変更・1年延長となったが、実質的活動は後半1年のうち感染縮小期に集中させる経過となった。企画代表者が島内医療従事者であることから、他者との接触制限・渡航自粛が著しく急な病休期間も経たため、島外の家族を対象とする対面交流と企画運営のチーム化は一旦諦め、「限定した場と人」内で可能な活動に絞った。
経過は①デジタルアーカイブシステム構築(デモ版)、②文献検索・蒐集、③聞き取り調査、④分析・編集・デジタル化、⑤交流機会の準備・実施、⑥改修構想・準備・施工の6層に大別できるが、上記事情から、「県内・オンラインのみ」、「運営協力者2名・施工業者1社」に固定し、代表者が生業=医療業務上免疫低下者・抗原検査等に携わる場合は前後10日間の活動を停止する制限を課した。
文献調査では、医療・福祉の公的性格を鑑み、自治体発刊の郷土史料を軸に、各種論文、オンライン検索&取寄せ、蔵書館利用、島内所有者訪問等から入手した知見をマッピングする手法で6領域を1~3巡したものの、郷土史料は禁帯が多く取扱いに手間取った。聞き取りでは、年齢・健康状態やテーマに応じ誰に何をどう尋ねるのが適切かを逐次熟考して実施した。交流では、各人の来歴・需要やパーソナリティを活かしプライベートサロン風に楽しんだ。トイレ・空調・棚を施工し、歴史的什器の再生にも取り組んだ。

活動の成果

●デジタルアーカイブシステム構築では、NAS(ネットワークHDD)を用いてA家母屋・納屋のTV複数台をデバイス化&一元化した。後期高齢者や乳幼児にとって馴染みあるTV活用によって、滞在空間の操縦実感を高めてもらい、運営側のセキュリティや効率も高めた。

●改修では、トイレ簡易水洗化と空調新規設置(2台)、既存建具や床材のメンテンナンス(紙・木材等の呼吸を妨げない塗装)、歴史的什器に拘った室内家具を転倒予防も兼ねた配置・形態にすることで、元来バリアフルな古民家を極力バリアフリー化した。納屋は基本的に無垢材・加工木材の面取什器で統一し乳幼児~年少者が集える空間を目指した。

●史料蒐集(県内踏査込)では、島民生活・信仰・産業・教育・福祉(保育&介護)・医療の6領域で実施した結果、島内保育・高齢者福祉事業の沿革を論拠を伴って抽出でき、引き継ぐリサーチクエスチョンや仮説も得られた。殊に島民からの紹介文献によって「豊島における賀川豊彦」像や豊島ナオミ荘設立時背景が具体化された成果は望外であったが、現神愛館(坂出市)の現存史料が少なかったのは無念だった。また、豊島教会歴代牧師の図書室や鳴門市賀川豊彦記念館を各県内在住者で訪れ現役管理者と対話を深め、瀬戸内海の島々の伝道史料・蔵書目録(写真)を得、今後の文献蒐集に役立つ視座も得た。

●聞き取りでは、島の保育・高齢者福祉事業について関係者と非関係者計7名の記録を、メモや映像・音声データでNASに格納した。保育事業沿革は年表形式で簡易編集した。

●交流機会は8回マネジメントした。民俗史料の閲覧・読合わせ(2回)、豊島小中OBである島外別居子の著作(育児書)を当該母親と育児世代で囲んで感想交流、豊島関連本格映画や話題作の鑑賞(2回)、要支援・介護者のデイケア的サロン&レスパイトケアの試行、知育玩具/教材での遊びと見守り、移住動機等の対話がなされ、どれも好評だった。

●総じて「普段の生活を彩る役割」(ケア)を果たせつつある。

活動の課題

調査において、深度が浅い領域の調査蒐集を深め、逐次編集へシフトする。可視化の際には、乳幼児・高齢者がよりアクセス・視認しやすい形態を追求する。新型コロナ感染状況に応じて、チーム化/法人化/島外/障がい者福祉へのアプローチを進める。交流については、継続性を重視して一部共同事業化の可能性を探る。「理解者がいる・理解したい・しようとしてくれている」ことの体感はケアであるとの信念のもと、記憶が世代間で共有・融和されることで安心がひろがる空間づくりに努めていく。また、今回改修した古民家Aは島民や島外別居子とのコミュニティスペースとして活用していく。そこで2020年度に感染症の影響で中断していた、島内の方の記憶や思いをヒアリングしナラティブ編纂することを再稼働させ、豊島の人々の生活の記憶を残していきたいと考えている。

  • 島内外オンラインで史料閲覧・読み合わせ交流

  • 改装納屋で遊び見守り(三球儀&万華鏡制作)

  • 亡祖父が贈ったペカンと孫の対面