アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

ツシマアートセンターの設立と実験的運用

対馬アートファンタジア実行委員会

実施期間
2014年5月1日~12月20日

活動の目的

対馬は歴史的にみて常に対外的な交易や流通の拠点として栄えてきた。対馬が活力あふれ個性豊かな地域社会を実現するためには、対馬の地勢的条件を考慮した取り組みが必要である。これを踏まえ、国際言語とも言うべき「現代アート」を用い、友好的で円滑な国際国流を進め、これを中心としたまちづくりを行っていく。

活動の内容

対馬を舞台にこれまで開催してきた、芸術祭「対馬アートファンタジア」の拠点として、現代アートによる活力あふれ個性豊かな地域社会を実現するべく、対馬の中心部、厳原町の休眠施設、古民家などを改修してツシマアートセンターとし、実験的な運用を行った。5月から施設の整備を始め、8月中旬より本格的なアーティストの滞在制作、ワークショップなどの交流事業を開始した。今回計20名(日本11名、韓国9名)のアーティストが対馬に滞在し、住民のサポートを受けながら作品制作を行った。期間中にはアーティストが講師となり行われたワークショップ、地域の有識者やアーティストがそれぞれの専門分野について語り、話し合う勉強会、実行委員会・地域住民・市役所職員・アーティストらが参加しアートによるまちづくりについて議論する会議など、様々な取り組みを多数実施した。また作品は、9月から11月にかけて開催された「対馬アートファンタジア2014」で公開され、日本人、韓国人観光客を中心に多くの人々に鑑賞された。
実施場所: 長崎県対馬市厳原町 有明荘を中心とした休眠施設および古民家等

参加作家、参加人数

●参加作家:計20名(日本11名、韓国9名)
日本側からの主な参加作家は山本糾、加藤翼、加茂昂、伊東敏光、入江早耶、黒田大祐。韓国側からは釜山を拠点に活動する中堅、若手のアーティストが参加した。主な参加作家はジョン・マンヨン、キム・ボキョン、ソン・ソンジン。
●学生ボランティア:約10名
●ワークショップ、勉強会等参加者数:約300人
●対馬アートファンタジア2014来場者数:約9,000人

他機関との連携

連携をとった機関:対馬市(展示会場提供・広報協力・資料提供等)、対馬歴史民俗資料館(展示会場提供・資料提供)、半井桃水館(展示会場提供・資料提供)、釜山文化財団(韓国人アーティストの派遣)、対馬ケーブルテレビ(各種イベントの宣伝)、広島市立大学芸術学部伊東研究室(参加作家の選出・学生ボランティア募集)

活動の効果

アートセンターという拠点を設け、期間限定の実験的な運用ではあるが、継続的な一連の取り組みが行われたことで、参加した芸術家と地域住民との交流がより促進されたと同時に、アートセンター周辺に賑わいをもたらすことができた。アートセンターとして使用した施設の近所の方からは、使われなくなった建物に人が戻ってきたことを喜ぶ意見が多く挙がった。時にはこの取り組みに対する疑問の声が寄せられることもあったが、そのような意見も含め、多くの住民と意見を交わし、議論をすることができたことは大変意義のあることであった。アーティストが長期間滞在し、住民と交流を続ける中で、育まれていく人間関係や信頼関係が確かにあり、それを入り口としてアートに関心を持ち、楽しみ始めるということが見受けられたのは大きな成果であった。

活動の独自性

この活動の独自性としてまず挙げられるのは、実施している地域、対馬の地政学的な特徴である。韓国との国境に位置するため、日本の他の地方自治体と同じ少子化などの問題を持ちつつも、他の地域では見られない、国境の島ならではの国際性・歴史・風土・文化と共に生きる人々の暮らしがある。本活動では、古来より様々な国と地域の人々や文化が交わる場所であった、対馬のアイデンティティーを存分に生かすべく、韓国をはじめとするアジアやその他の地域とアートによる交流を行い、それにより対馬独自の活力あふれる地域社会の実現を目指している。ローカルな性格とグローバルな性格が同居する対馬ならではの取り組みといえると考えている。

総括

本プロジェクトは東アジアの国際交流の拠点としての、活力あふれる個性豊かな「対馬」の実現をめざした、世界言語ともいえる「アート」を媒介にした国際交流事業、「対馬アートファンタジア」の過去3年にわたる開催を背景に計画され、実施された。本年度は、これまで開催されてきた取り組みが一過性のイベントで終わらず、対馬にしっかりと根付き、長期的な展望を可能にするための芸術祭の拠点が必要であると考え、芸術家の滞在施設・地域のプラットフォーム・国際交流の拠点という機能を持たせた「ツシマアートセンター」を設置し、実験的な運用を行った。これまでの3年間の活動で築かれた、地元の各関係機関、韓国の財団等と連携を取り、活動は順調に進められたように思う。拠点を持つことで、関係者・参加アーティスト・地域住民との交流がより促進され、相互間で新しい繋がりが生まれ、意見交換や議論が行われるようになったことは大きな成果であった。
その中で浮彫になった課題もあるが、課題をしっかりと解決しつつ、来年度以降もこのアートセンターの運用を継続し、より充実した取り組みにしていきたい。