アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

多様性の肯定される地域創造事業

鞆の津ミュージアム

実施期間
2014年4月~2015年3月

活動の目的

障害のある方や地域に住む老人など、社会的に不利な立場に置かれがちな人たちの創作を紹介する展覧会および関連イベントを実施し、多様な表現を経験できる機会を創出することによって、多様な価値観を育む。また、展覧会を通じた創作当事者の生活の質の向上、および地域コミュニティーに住む住民同士の交流活発化をめざす。

活動の内容

障害者施設などに出向し、障害のある方や地域に住む老人など、社会の「周縁」で創作活動を続ける人たちの表現の調査を実施した。そして、調査した表現を含む様々な創作物を紹介する企画展示を開催するとともに、トークイベントなど関連行事を鞆の津ミュージアムにて行った。開催した企画展は、
①「ヤンキー人類学」および
②「花咲くジイさん~我が道を行く超経験者たち~」
である。また、両企画展ともに出版社から書籍として刊行された。また、書籍化に際して、出展者へのインタビューを行い、出展作品の創作環境に関するアーカイブを作成した。
実施場所:広島県福山市 鞆の津ミュージアム、鞆こども園など

参加作家、参加人数

企画展①「ヤンキー人類学」
来館者数:3,724人(有料の入館者=2,947人)
出展作家:丸尾龍一、ちっご共道組合、常勝丸船団、磯野健一、相田みつを 他
企画展②「花咲くジイさん~我が道を行く超経験者たち~」
来館者数:1,422人(有料の入館者=969人)
出展作家:糸井貫二、蛭子能収、小川卓一、沼博志、大野博司、城田貞夫、軸原一男、長恵 他

他機関との連携

展覧会関連イベントとして実施した講演会を、当館の裏手にある「鞆こども園」にて開催。また、参加者10名ほどが、出展者である城田氏が経営する「スナックジルバ」を訪れ、来館者と出展者の交流を行った。

活動の効果

本計画の実施により、社会の「周縁」で生きている方の社会参加機会を創出することで、彼らの日常生活の中に楽しみを呼び込むことができたのではないか。また、非典型的な価値を体現する表現を紹介することで世の中に多様性を確保し、異なる価値や存在への寛容さを養うきっかけをつくることができたのではないかと考える。さらに、本事業が呼び水となり、地元に新たな層の観光客を集めたのではないかと思われる。

活動の独自性

近年、文化庁など国や自治体主導で、障害者による芸術活動を支援する動きが高まっており、展覧会での作品紹介を通じて創作当事者へも光が当てられるなど、障害者文化の社会的認知が広まってきている。一方で、そのような支援活動は障害者に限定される傾向が強く、その他の社会的少数者の表現が取り上げられることはあまりない。しかし、上記の支援活動のねらいが多様性の確保であるならば、障害者に限らず、社会の「周縁」で創作を続ける人たちの文化を紹介する必要がある。このような考えに基づき、「ヤンキー」や独居高齢者など否定的に捉えられがちではあるが、社会に多様性をもたらす人々の表現を広く紹介した点が本事業の独自性だと考える。

総括

企画展「ヤンキー人類学」には、当館へのアクセスしづらさにも関わらず3700人を越える来館者があり、非典型的な表現であっても肯定的に受容される可能性のあることが確認できた。また、本展での出品を契機にメディアで頻繁に紹介されるようになった出展者もおり、出展者の生活に彩りを提供するというねらいも達成できたのではないか。ただし留意すべき点は、こうした作品紹介は彼らの人生に急激な変化をもたらす可能性があることであり、今後も、同様の企画展への出展依頼には慎重な配慮が求められる。
企画展「花咲くジイさん」は、高齢者の表現を紹介する展示ということで65歳以上を入館無料とした結果、多くの高齢者の来館を実現できた。実施したアンケートでは、来館者の属性の老若に関わらず、「高齢者」の活発な活躍を見ることが自らの生活の糧となったり、「高齢者」に対する認識が肯定的なものに変化したことが読み取れた。
総じて、障害者に限らず社会の「周縁」で創作を続ける人たちの文化を展覧会というかたちで世の中に紹介することで多様な価値観を確保し、自らとは異なる存在に対する寛容さを養うという本事業は、上記のように、一定の成功をおさめたと考える。