アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

女川常夜灯「迎え火プロジェクト」・女川国物語

一般社団法人 対話工房

実施期間
2014年4月~2015年3月

活動の目的

復興計画5年目の女川町にて、火を囲んだ静かな対話の場や荘厳な雪山を登り自然の一部である身体と対峙する場を持ち、火を囲むことで、復興の槌音にかき消されがちな、暮らしを営む人々の日常の対話や多様な表現の場を住民らと共に育むことを目的とする。

活動の内容

2012年から継続している「女川常夜灯」は2014年で3回目を迎えた。初年度は住民らがかつて暮らした敷地の上で各々小さな火を囲んだ。2、3年目は土地造成の状況により開催場所を点々としつつも、静かな対話の場として町内外からの来場者を迎えている。女川国物語は「うみやまさんぽ」として女川の歴史や地形をアーティストや地域住民と巡り、女川における海上と天空、人と自然の営みの関係を紡ぎ直すような時間として継続している。離島出島では地元高齢者と学生らがかつて行われた塩づくりを再現し、文通もするなど交流を深める。住民らと地域の歴史・伝統・文化・自然・地形を学び直す対話の場づくり、対話ツールの発見と共に、震災によりあらわになった様々な分断をつなぎ直すような小さな活動を継続している。
実施場所:宮城県女川町

参加作家、参加人数

参加作家:小山田徹、海子揮一、草本利枝、山田創平、安岐理加
参加人数: 女川常夜灯=来場者約100名(町内外より)、ボランティアスタッフ約50名(地元住民及び学生、他一般継続ボランティア)|うみやまさんぽ、延べ参加人数約70名(町内外より)|環境省連動企画(うみやまさんぽ)延べ参加人数約60名、他

他機関との連携

女川町、女川町観光協会、女川町ネイチャーガイド協会他、女川の様々な機関との連携は順調。
2014年度は環境省との連携企画も実施した。

活動の効果

町全体で早期復興を目指し新しいまちづくりが進む中、急激な計画決定と実施による困難も顕在化しつつあるようだ。また様々な立場の違いによる精神的乖離が心配される。とにかく急がれる復興で早回しで流れる時間の速度を瞬間的にでも落とし、短期的な「今」に集中しなければならない人々の中に、地球的「過去・現在・未来」という時の連なりの中で物事を考えられる時間を点在させることをできたことが、一番の効果かもしれない。

活動の独自性

震災前からあった女川での小さくとも顔の見える貴重な関係は、対話工房を窓口として訪れてくださる日本各地からの参加者により、新たに大切にできる「顔の見える関係」を築くことで増殖している。全国から集う人々の地元に女川住民らが招かれ、未曾有の事態の経験を未来への貴重な財産として共有する場も少しずつ実現している。震災時だけでなく普遍的に大切にされるべき「顔の見える関係」と「対話と表現の場づくり」を基とする活動は、小さく多様であり続けること、少しずつでも増え続けること、また終わりのないことをその独自性としたい。

総括

東北の状況は多様で一口にその状況を言い表すことは困難だ。今東北はどう?と聞かれて戸惑う。これはどこでも当てはまることだろう。東京は?京都は?アメリカは?都会は?田舎は?という問いはある一定の物差しとなりうるが、その物差しがあるがゆえに、想像力はそがれ、単純に言い表せないグラデーションの中にある多様性はこぼれ落ち、とり残されて、居場所を失いかねない。対話工房では、アチラ側とコチラ側ではない、「わかりづらさ」を伴う居場所を、文化芸術と称して火を囲んだり山を登ったりしながら創り出している。小さい余分な居場所を創り出している。外部から女川に関わるよそ者が増え互いに影響し合いながら、それぞれが自らの土地で生きるための表現を模索し合っている。「わかりづらい」からこその「対話と表現の場」を創り出し続けるこの活動は、同時に未来の多拠点居住の可能性の芽を増殖させるためにも継続したい。何より、今年も女川の人々に感謝する1年だった。