アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

AIRつしま

対馬アートファンタジア実行委員会

実施期間
2015年7月1日~10月1日

活動の目的

対馬は歴史的にみて、常に対外的な交易や流通の拠点として栄えてきた。対馬が活力あふれ個性豊かな地域社会を実現するためには、対馬の地勢的条件を考慮した取り組みが必要である。これを背景に、現代アートによる個性豊かな地域振興と国際交流を目的とし、未来へ繋がる継続的なレジデンスプログラムを計画した。

活動の内容

対馬市厳原町内の休眠施設(古いアパートと古民家)を改修・整備し、これらの施設を中心に、国内アーティストによるレジデンス、海外アーティストによるレジデンス、美術大学の学生によるレジデンスプログラムを実施した。レジデンスの実施にあわせワークショップ、レクチャーなどの関連イベントを自治体等と協力しながら多数開催し、地域住民との交流の場を多く設けた。アーティストは長くて1カ月以上対馬に滞在し、イベントのときだけではなく、日常的に地域住民と交流し、対馬のことを学び、吸収しながら作品を制作した。
こうしてレジデンスで制作された作品は対馬アートファンタジア2016で発表され、広く公開された。多数の入場者を迎え、新聞などでも取り上げられた。
実施場所:長崎県対馬市

参加作家、参加人数

対馬に関心を寄せるアーティストは多く、予定より多いアーティストの参加となった。国内アーティストが8名、海外アーティストが5名、美術大学生が5名参加した。関連企画イベントには延べ約250人が参加。レジデンスプログラムの成果発表の場である「対馬アートファンタジア2016」には約9,000人が来場した。

他機関との連携

対馬市(会場提供等)、コミュニティーメディア(広報協力)、対馬歴史民俗資料館(会場提供等)、釜山文化財団(作家の派遣)、広島市立大学伊東研究室(作家選定等)、半井桃水館(提供等)、WATAGATA Arts Network(関連企画の開催)

活動の効果

レジデンスでは、地域住民と参加アーティストが日常的にふれあい、交流を深めていった。そういった交流は、少しずつではあるが確かに、島内の人同士の間にも新たな繋がりを生み、また地域住民が、地域の持つ魅力に気づく機会をもたらしていた。アーティストも対馬とそこに住む人々に真摯に向き合い、制作された作品も非常に充実していた。対馬の豊かで独自の資源や地理的特徴を活かした地域文化の創造と発展に寄与できたと考えている。

活動の独自性

古来より対馬は常に対外的な交易や流通の拠点として栄え、朝鮮通信使のような有名な例を挙げるまでもなく、大陸から日本への玄関口として機能してきたと言える。本事業はこうした対馬の基本である地理的条件や文化に立ち返り、これを活かした国際的なアーティスト・イン・レジデンスを実現し、対馬で脈々と受け継がれてきて独自の地域文化・社会の再興、発展を目指すものである。
国際性と地域性を併せ持つ稀有な地域を、現代アートをツールとして再興し、現代において忘れられつつあるその文化や価値を広く発信しようとする点は、非常に独自性が高いものだと考える。また生み出されている作品の内容も大変充実している。

総括

本事業は、これまで実施された対馬での現代アートによる取り組みの経験から、アーティストと地域住民のより多くの交流が必要と考え、企画された。18名のアーティストが対馬に滞在し、期間中に地域住民と日常的にふれあい、交流を深めた。交流は互いに発見や新たな知見をもたらすことになった。アーティストは対馬の独自の風土、習慣を知り、地域住民は当たり前であった地域の文化や習慣を再発見することとなった。アーティストという異邦人が地域社会に入り込むことは、固定化されていた地域社会の人間関係に新たな繋がりを生む機会にもなった。これらの出来事はまだまだ規模が小さいものであるが、確かな効果を生んでいる。対馬で独自の地域文化・社会の再興・振興を実現するために、現代アートは引き続き必要な取り組みであると感じている。
事業の運営やコーディネイトに関しては、改善の余地があるので、専門のスタッフを外部から招聘するなどして、より多くの効果が生み出せるように努力していきたい。若者の流出が進み産業も衰退するなかで、観光に活路を見いだそうという動きもあり、その中で本事業に期待を寄せる声も聞かれる。期待に応えられるよう頑張っていきたい。

  • 作品のために民謡の収録を行っているところ

  • 参加作家によるトークの様子

  • 成果発表時のギャラリートークの様子