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アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ
活動の目的
これまで記録がほぼ皆無である、地域の消えゆく貴重で重要な文化資源「亜炭と埋木」にまつわる生活文化史を、アーティストと市民が協力して掘り起こし、その価値を再認識するとともに、記録して後世に語り継ぐ。高齢者の活躍の場、多分野・異世代の人々をつなぐ機会を設け、地域に新たなネットワークや活動を創出する。
活動の内容
「いま・ここ」でしかできない活動を念頭にアーティスト伊達伸明が4年間滞在制作し、市民への聞き取り調査、フィールドワーク、展覧会や座談会、ワークショップを県内外で実施、記録物を発行した。2015年度は活動成果の発表として展覧会「山のひかり 川のほし」を開催、これを軸に多くの機関と連携し、関連イベントを行った。展覧会ではこれまで市民から収集した膨大な資料(思い出話、画像・文献資料)を作家が編集し市民協働で展示物を制作した。展示物と記録冊子は語り継ぎの道具として今後再利用できるものとした。多種多様な催しを通じて地域資源の価値を再発見するとともに認知度をあげ、これまでにない視点から地域特性を浮き彫りにした。
実施場所: せんだいメディアテーク、サンモール一番町商店街アーケード、八木山市民センターほか
参加作家、参加人数
美術家伊達伸明が企画の全体構成と作品制作を行い、地元の作家ら(あぶくま沈木会、大柏良、川村智美、鈴木綾乃、齊藤彰、古内一吐、渡邊博一、渡邉武海ほか)、炭鉱従事者(照越炭鉱シャベル会ほか)、かつての埋木細工店、研究者(松浦丹次郎、松山正將ほか)、哲学者の鷲田清一らが出品・出演した。近県各所・通年の開催で2,830人が参加した。
他機関との連携
仙台市内社会教育施設、公園管理者、市内大学、小学校、工芸関連団体(クラフトフェア実行委員会、埋木細工店、亜炭鉱山関係者、福島の研究グループ等)、山形・舟形町教育委員会ほか
活動の効果
企画に触発された参加者が今度は自ら主催者となり類似企画を各所で実施したほか、展覧会終了後、出品物の展示依頼や出演者へのトーク・講座依頼、取材、公的施設で活動の展開が見られ、また展示来場者が研究を進め新発見があるなど活動の連鎖が見られた。次年度以降も継続活動できるグループ作りを行うことができた。暮らしに深く関わるテーマ設定と作家の丁寧な地域との関わりにより、美術に無関心な層をも対象にすることができた。
活動の独自性
石炭のような大規模産業で記録や遺構が多く残る街とは違い、亜炭のように零細で記録も遺構もほとんど残っていない街・仙台でこれらの記録を掘り起こす本プロジェクトは、これまで似たような取り組みもなく未踏のテーマであったことから数多くの発見があり、埋木という現在市場では流通していない幻の希少工芸材に光を当てたことでも新しい発見があった。高齢者の知見を編む活動のうねりを作り出し、皆で一つの市民共有財を創出することができた。学術的な博物館の収集対象からはこぼれ落ちる、曖昧で誤解をも含んだ人々の記憶を扱い、地学・歴史・工芸・地下鉄工事など、異分野を横断して人をつなぐこの活動は、まさにアートならではといえる。
総括
プロジェクト開始当初は、亜炭や埋木が入手できるかどうかもわからず素材探しから始まった。入手においては所有者の厚意に訴えるなど、多くの方の理解と協力なくしては成しえない活動であった。「亜炭・埋木」の思い出として語られた事物が今の私たちの生活にどうあるかを調査し、現地に赴いて足元の小さなかけらや、風景のかすかな断片から時間の積層を読み解く作業を重ね、これまで見落としていた街の魅力を掘り起こすと同時に、今の生活や社会のありようを捉え直す機会となった。郷土史を扱うことが多い中で無味乾燥な史料を見せるのでなく、温もりある記憶に思いを馳せられるよう工夫を凝らした。多様なプログラムの中でもワークショップ「埋木みがき隊」は、埋木という材の特異性と工芸技法を簡単に理解できる体験講座で、3歳以上の方なら言葉の通じない外国の方でも、目や耳の不自由な方でも参加可能なバリアフリーな内容である。4年間実施しているが非常に好評で、これまでに約1,500人が体験した。こうした活動は体験者が主催者に転換しやすく地域に根付きやすい。新しい観光資源として炭鉱跡や生活古道をたどる街歩きも人気があるが、非公開の場は今後の運用に課題が残る。
クラフトフェアで埋木磨きのワークショップ
自作の埋木製ウクレレを演奏する伊達伸明氏
街から歩いて15分地点で亜炭観察ピクニック