アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

“生きる”博覧会2015

ENVISI

実施期間
2015年4月~2016年3月

活動の目的

人々の記憶を留めた町や生業の場がすべて失われた町で、他者との関係性の中で自分自身の存在を確かめる場を創出したり、町の記憶や人々の誇りという見えないものを顕在化させる。復興までの長い道のりを歩みながら、決して消費されることのない“生きざま”“精神風土”を、南三陸の人たちが維持するのに資する活動を行う。

活動の内容

① みんなのきりこプロジェクト/町の人たちの歴史や生の証しを、切り紙に表し、軒先に飾る。8月29日(土)~9月13日(日)
② 写真家浅田政志氏による南三陸“がんばる”名場面フォトプロジェクトを継続。仲間や写真家とシーンを作り撮影することで、仲間や家族の存在を再認識し、この町で生きていく喜びを確かめ合う機会を創り出す。作品は、ポスター、広報紙、写真集(フリーペーパー)などで展開した。
③ 謝々台湾/台湾の莫大な寄附により再建された病院のオープニングにあたり、子どもたちが復興のためにがんばる人々を描く歌を作り、オープニングに演奏。同時に中国箭紙と「みんなのきりこ」を館内に装飾。病院の内装にも「きりこ」が採用された。
実施場所:宮城県南三陸町

参加作家、参加人数

●南三陸“がんばる”名場面フォトプロジェクト
参加作家/浅田政志
参加者(2015年度)113人・(通算)538人
●みんなのきりこプロジェクト 参加者36人
観覧者数 5,000人
●謝々台湾 参加アーティスト/榊原光裕・猪狩大志
参加者/63人 関連者数/1,500人

他機関との連携

●南三陸町観光協会と共催
●南三陸町に写真集印刷の協力
●宮城県漁協志津川支部戸倉カキ生産部会との連携

活動の効果

「みんなのきりこ」やフォトプロジェクトは、失われた町を建て直す混沌の中で、住民自身が鳥の目線で自分自身の姿を客観視するという機会や、自らの手に流されずに残っているもの、大切にすべきものは何かを考える時間を一人一人にもたらしている。今もなおもっとも輝いているものは、みんなで流す汗や人付き合いのわずらわしさをも含んだ日々の暮らしと人々の関係性の中にこそあることを気付かせるきっかけを創り出した。

活動の独自性

契約講の仕組みが海辺の生業を支え、コミュニティー内の人の関係性が濃密だったこの地域。濃密な人と人との付き合い・助け合いが、いまだに残っていたことが、被災後の復興にも大きな力を発揮してきた。町の中心部においてさえ、他者を思うふるまいが生きていることを、皮肉にも被災によってあらためて知ることになった。しかし、これまでの歴史の証しが何もかも失われたことで、自分たちの身体の中に残っていた「わずらわしさをあえて引き受けて生きる」生き方から、ともすると人は離れていこうとしている。だが、外部の私たちをも強く引き付けるのは、彼らの生き方にこそある。そのことを地域の人たちに再認識していただくことが、私たちの活動である。

総括

「みんなのきりこプロジェクト」は、背景になる景観があってこそ、本来力を発揮できるのだが、いまだに新しい町の姿は見えにくく、土埃の中で人々は暮らし続けている。今は、展示を見てもらうことより、切り紙を作る町の人々とそれを受け取る人との関係性こそが大切だと感じている。今年は町役場の方も展示を手伝ってくださるなど、小さな進展もあった。新たな町にきりこを飾る日を思い描こうと呼びかけ始めたが、まだまだその日は遠い。市井の人々の物語を語り継ぐことこそが、本当の意味で震災を語り継ぐということになると、年を経るごとに感じている。
9割の家が失われた戸倉地区のカキ養殖が、日本初の国際認証を取得する快挙を成し遂げた。取得見込みが出た時点で、カキ部会の全漁師さんを撮影しようということになった。全員勢ぞろいするなんて、何十年もないと言われた。そして、浅田さんの写真を見て、漁師さんが「おれたち、自分たちがすごいことやってるって、もっと言っていいんだよね?」と私に聞いてきた。そして、その写真のポスターを背に、「高く売るってことより、親父たちはすごいことやったんだって息子たちに言われることがうれしい」と笑顔で語った。

  • 戸倉カキ生産部会のみなさん。
    浅田政志撮影

  • みんなのきりこプロジェクト。設営を終えて

  • フォトプロジェクトをまとめたフリーペーパーの表紙