アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

豊島の記憶の記録プロジェクト

てしまのまど

実施期間
2016年9月17日~11月30日

活動の目的

歴史文化が語り継がれる機会が年々縮小しているのが現状である豊島で、作家、専門家らがその専門分野において、豊島をリサーチするプロセスを経た展覧会を開催することで、多くの人々とともに島の固有の文化を伝承してゆくことを目的とする。

活動の内容

今年度は、この島におけるさまざまな「記憶」にコミットする展覧会を開催することを目的とし、2013年より毎年招聘し滞在制作を行ってきた藤井光と吉濱翔、そして新たに近隣在住の写真家である宮脇慎太郎と音響エンジニアのシライセイジ、作陶家の工藤冬里、島在住の浦中ひとみ、本企画の企画者である安岐理加を展覧会の参加作家とし、5~6月は各作家の滞在制作を行い、9月から11月まで、写真、映像、立体、サウンド、絵画による展覧会「その島のこと」を開催した。
また会期中には、人々の記憶を語り継ぐ伝承について映画を通して感じ考える試みとして、映画「東北三部作 うたうひと」の上映会と座談会を開催。収集した素材を即興的に再構築し作品化する試みとして、高松のライブスペースにて参加作家3名によるライブを行った。
実施場所:てしまのまど(香川県小豆郡土庄町豊島家浦2458-2)

参加作家、参加人数

作品展示
藤井光、吉濱翔、シライセイジ、工藤冬里、宮脇慎太郎、浦中ひとみ、安岐理加
関連イベント
silent voice相澤久美(うたうひと上映会と座談会)
工藤冬里、シライセイジ、吉濱翔(ノイズ喫茶iLライブ)

他機関との連携

豊島廃棄物対策住民会議、家浦自治会(作家の制作)、アーティストギルド(展覧会の開催)、silent voice (映画上映会)、ノイズ喫茶iL(関連ライブ)

活動の効果

参加作家らは、彼らのこれまでの活動の延長線において豊島滞在制作を行い、それぞれの領域において作品制作を行った。
本年は瀬戸内国際芸術祭の開催年でもあったため、本展覧会は、多くの人々に観覧していただく機会を得た。また、島で暮らす人々にとっても、慣れ親しんだ環境や出来事について、他者の視点により制作された作品を通して、素晴らしさや、誇らしさを再認識できたことは、本展覧会の企画の重要な目的を達成しえたと感じている。

活動の独自性

本プロジェクトの独自性は、多様な分野における専門家をアーティストおよびリサーチャーとして迎え、島民らとともに、暮らしのなかで連綿と受け継がれてきた「生きられた文化」が、どのような社会・文化状況のもとに置かれてきたかを複眼的に考察したプロセスを、展覧会を経て冊子化すること。このことにより、認知されていない複数の「ローカル」な歴史や表現が顕在化し、この島におけるアヴァンギャルドな実践を「マイナー芸術」という文脈で残してゆくことである。

総括

てしまのまどは、造形について暮らしから考えてゆく態度として、オーラルヒストリーの収集、記録、保存および共有する活動と、もう一つ並行してアーティストを招聘し滞在制作の場を開く活動を行っている。
これまでに、藤井光、吉濱翔、中西レモン、工藤冬里が滞在し、それぞれが表現活動の延長線上においてこの島で、制作活動を行った。展覧会「その島のこと」は、これまで招聘してきた藤井と吉濱、工藤に加え、企画者の安岐理加、豊島とその近隣に住む浦中ひとみ、宮脇慎太郎、シライセイジの7人それぞれが、島という環境下で生成されてきた暮らしとその記憶について考え、表現を通してさまざまな人々との共有を試みたものだ。本年は瀬戸内国際芸術祭の開催年でもあったため、本展覧会は、多くの人々に鑑賞していただく機会を得た。これまでは、多くの観光客が訪れながら、この島のことは通過されがちであったが、今回の機会によって表現を通して島のさまざまな面に接近してもらうことができた。今後もこの活動をさらに深め継続してゆきたい。

  • 工藤冬里 滞在制作

  • 藤井光作品「暗唱の家」より

  • 展覧会「その島のこと」展示風景