アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

釜ヶ崎芸術大学2016

特定非営利活動法人 こえとことばとこころの部屋

実施期間
2016年4月~2017年3月

活動の目的

日雇い労働者の町・釜ヶ崎。高齢化し、孤独感や依存症をもつ人が急増している。生きがいとつながりを持つことの重要性をとらえる。これまで商店街で喫茶店のふりをしてきた私たちは、まちを大学に見立て、「釜ヶ崎芸術大学」としてスタート。さまざまな問題を抱える若者や外国人旅行者なども行き来する街で“結び目”となる活動を続けている。

活動の内容

美学学会・脳と視覚・男女と色恋・詩・合唱・感情・ダンス・天文学などの多彩な講座を実施。また、統計・建築・俳句・SF等の過去にはない新しい講座も実施。実施場所は、できるだけ足を運びやすい近隣地域の集会所5カ所程度。その他、近隣の中高等学校にて、講師と釜ヶ崎芸術大学在校生数人とともに出張講座を開催。すべて合わせて74講座を実施。なお10月には、講座の成果を「釜ヶ崎オ!ペラ3」と題し、ココルームにて発表。
実施場所:西成市民館、太子老人憩いの家、新居場所、三徳寮、みどり苑、ココルーム、他

参加作家、参加人数

参加講師:森村泰昌(美術家)、西川勝(看護師・臨床哲学)、尾久土正己(天文学者)、倉田めば(薬物依存回復支援団体「Freedom」代表)、岩橋由莉(表現教育家)、茂山童司(狂言師)、野村誠(作曲家)、他
講座参加者数:1364人

他機関との連携

大阪市立大学・社会包摂型アートマネジメント・プロフェッショナル育成事業:「アートの活用形?」の一環として、釜ヶ崎芸術大学成果発表会「釜ヶ崎オ!ペラ3」を実施。イギリスからアート団体ストリートワイズオペラのアーティストを招聘。近隣の市民館や支援機構との連携も継続。

活動の効果

今事業が始まって5年目。参加者の講義に対する取り組みはますます真剣である。参加者は自分の意見を自分の言葉で述べ、かつ他者の異なる意見を聞く耳を持つレベルになっている。講師の方々の柔軟性がそのゆえんでもあるが、参加者の自己を表現する喜びへの目覚めが大きい。また地域の福祉組織や事業体との協働の機会も増え、地域の他分野の連携も積極的に行っている。また、鳥取での公演、静岡での展覧会など、遠方での活動の機会に恵まれ波及力を感じる。

活動の独自性

釜ヶ崎に場を開くことから見える風景は多様である。困難な状況を抱えた人、少しずつ回復している人、体の不自由な人、スリップする人など。出会いは絶えない。このようななかで繰り広げられる表現は言葉にすれば取りこぼしてしまうほど、その場の体験以上に語れるものはない。釜ヶ崎芸術大学は、この“体験の場”を創出する。特定の専門家ではないからこそ出会いがダイナミックになる。新鮮な目線とゆるやかなつながりを土台に、そこにいる人たちとともに学び合う民主的な場である。

総括

2012年よりスタートした釜芸は5年目を迎えた。通年の多様な講座への参加者の好奇心・自己表現は旺盛であった。ただ、地域内の高齢者の参加数はおもわしくない。が、地域内での浸透、他分野の組織との協働などは進んでいる。本年度の成果発表会「釜ヶ崎オ!ペラ3」は、ココルームの庭園等を利用して開催した。例年以上に出演者と観客の距離が縮まり表現者と受け手の双方が一体化した発表会であった。鳥取、三島での公演・展覧会は、釜芸の社会化の後押しとなった。また参加者の中から運営業務に関わる人たちが現れた。彼らはアートマネジメントプログラムプロフェショナル見習いとして、運営の新しい推進力となっている。そして、未来への新しい試みも始まる。イギリスから「ストリートワイズオペラ」を招聘し、ともに話し合い、2020年東京オリンピックを視野に入れ、ネットワーキングプロジェクトが始動。対象を路上生活者に限らず、孤立した人々も含み、自分らしさや誇りを取り戻し、未来に向けてその可能性を広げる。これまでの運営経験を活かし未来への可能性へ向かって進み出した一年であった。

  • 古地図を手にまちを歩く「地理」講座

  • our sweet homeの部屋で「美学学会」講座

  • 講師と参加者が渾然一体となった「釜ヶ崎オ!ペラ3」