アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

アートによるソーシャルインクルージョン実験事業

認定NPO法人 クリエイティブサポートレッツ

実施期間
2017年1月16日~2月25日

活動の目的

個人の生活文化を表す「表現未満、」。それらを収集、発信、創造する場を、障害福祉施設と併設させて中心市街地に実験的に開き、今後の可能性を考察する。

活動の内容

障害福祉施設アルス・ノヴァを移動し、浜松市駅前のビルの2階、3階に「表現未満、」実験室を1カ月半、重度の障害のある人たちを核としたオルタナティブな場を設けてみた。期間中、市民が持ち込んだ企画も含み講座55回、トーク9回、ライブ・コンサート4回、上映会1回を行った。また、障害福祉サービスメニューである支援会議を、哲学カフェ風に公開で行う「しえんかいぎ」を9回、カンファレンスを1回実施した。こうした情報を網羅したガイドブック(A5判19頁)8000部を作成し、2000カ所に配布した。地元新聞での掲載、NHK静岡放送局での特集、全国誌(ソトコト)の取材を受けた。
実施場所:浜松市中心市街地(浜松市中区鍛冶町)

参加作家、参加人数

36日間、2200人来場。
トーク等(大澤寅雄、鈴木一郎太、甲斐賢治、今一生、熊谷晋一郎、堀田聡子、山出淳也、佐々木誠、籾山智子)しえんかいぎ(椹木野依、天田城介、アサダワタル、西川勝、石幡愛、永野香里、比留間雅人、高木誠一、)
音楽(マッスルNTT、だいすけ、ムラキング、他)

他機関との連携

静岡県文化政策課(2020年オリパラ文化プログラム)、浜松市産業振興課、浜松市都市政策課、浜松市にぎわい協議会、浜松協働学舎

活動の効果

●中心市街地に重度の障害のある人を核としたオルタナティブな場をつくることが可能であることが実証できた。
●想定以上に多くの来場者があり、交通手段などの利便性、気軽さなど、中心地で行うメリットがあった。
●支援会議という福祉系の人たちにもなじみのあるプログラムをアートプロジェクト的に行ったことで、福祉系の方々の注目を集めることができた。
●中心市街地活性化にも貢献できる事業であると産業系、都市計画系に提示できた。

活動の独自性

昨今、障害者アートのオリパラに向けての文化プログラムの隆盛のなかで、レッツの活動および今回の「表現未満、」実験室は、ソーシャルインクルージョンを目的とした事業として、全国的にも例のない先駆的な活動だと思っている。しかし、一方で作品性によらない「場づくり」はアートプロジェクトや文化プログラムとして認識されにくく、さらにそれを障害のある人を核とするといった福祉的分野に横断する事業は、一般的には理解されるのが難しく、ここをどう突破していくかが課題である。

総括

美術評論家の椹木野衣氏は今回のカンファレンスのなかで、アールブリュットがそもそも「反アート」として誕生した経緯から考えれば、作品に帰属することなく、行為そのものや場づくりを行っているレッツの活動は「本来のアールブリュット」であると評していただいた。
1カ月半、中心市街地にアルス・ノヴァが出現し、重度の障害を持つ人たちが居ながら(居るからこそ)100近いプログラムが実現し、多様な人たちが集うことができた。レッツの作る場は「ひたすら耕して軟らかい土をつくることだ」と評したのは期間中スタッフを務めた学生だった。何かが実る、花が咲くことを目的とせず、なんでも育つ土をつくる。そしてひたすら耕す。それが今回行った「表現未満、」の目的だった。そして、花や実は、ここを訪れた人たちが咲かせばいい。そうした「耕す」=cultivate→culture=「文化」の行為こそが今求められている。しかし、こうしたプロジェクトをアートとみなす機運は、大切だとも思われていない。それをどう突破していけばいいのか。これは一つの法人で乗り越えるのは難しい。とりあえず、福祉、文化政策、産業振興等の分野を横断しながらこうした場を恒久的に設けていくしかないと考えている。

  • 出会った人で偶然何かが起こる実験室の日常

  • 実験室を各分野のゲストと語った公開トーク

  • 市民が主催のイベントを多数開催