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アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ
活動の目的
東日本大震災で被災した地域の、過去から連なる「今、ここにある記憶」を、町民らの声を丁寧に拾いながら写真と映像で記録し、未来の町と、日本の他の地域に伝え生かすことを目的としている。
活動の内容
当初宮城県に通い、個々の記憶や「むかし話」の記録を実施する予定であったが、大幅な予算減を受け、これまで記録した映像並びに写真作品を、関連するテーマを持つ作品とともに展示し、また、福島県いわき市にて毎年開催される伝統行事の記録を行うにとどまった。
展示は作家の居住地でもある京都で実施。福島から避難された方による、地元福島の民話紙芝居の朗読とトーク、震災後東北で製作された映画の上映と、女川町を中心とした東北沿岸部に住む人々の個々の記憶が綴られた映像、北九州のある町の暮らしを記録した映像の同時上映、両監督、並びに写真家草本利枝によるトークを行った。直前に熊本での地震もあったため、会場にて草本の写真を使用した絵葉書を販売し被災地支援のための寄付金とした。
実施場所:宮城県女川町、福島県いわき市、京都府京都市
参加作家、参加人数
写真家:草本利枝
映像作家:泉山朗土・荻野衣美子
紙芝居語り手:伊藤早苗
監督:酒井耕
参加人数:約120名
他機関との連携
共催:一般社団法人silent voice/協力:国際文化政策研究教育学会事務局文化政策・まちづくり大学院大学設立準備委員会、東山アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)
活動の効果
東日本大震災後、自身の居住地において語られる機会の少ない被災地および被災者の捉えられ方に違和感を抱えつつ東北に通い続けた作家にとって、自身の居住地でこれまでの記録を公にし、「聞き」と「語り」の場を設ける機会は貴重であった。また、数年を経た被災地での様子を、映像や写真、被災のただ中にいる避難者自身の表現を通して受け止める機会を得た京都の人々と、表現者らの交流は、記録された人々の記憶、そして声を未来につなぐものであった。
活動の独自性
リコレクトに参加する作家二人に加え、『東北記録映画三部作』の監督、北九州で映像記録を続ける作家、福島から避難された紙芝居の語り手と複数の作家が集いちゃんと「聞き」、「語る」ことに焦点を置いた小さくとも丁寧な場作りを心がけた。九州と東北の映像は、教室の前後に向き合う形で配置された黒板に、ループ上映で同時に流され、観客は用意された音声分配器に接続されたイヤホンを装着し、視聴した。視聴した後に、希望すればいつでもお茶っこをしながら観客が「語る」ことができる場も用意された。
総括
その総体からすれば、わずかな断片に過ぎない人々の記憶や声は、写真、記録映像、映画、紙芝居というさまざまな媒体を通して京都に集い、人々と出会った。
『リコレクト~記憶のいかし方 京都で「聞き」「語り」「思う」お茶っこの会』は、2016年5月7日(土)、8日(日)のわずか2日間の開催であったが、会場となった旧成徳中学校の管理運営者より「もっと長く写真を展示し、ここを訪れる多くの方に見てもらいたい」との要望をいただき、結果数カ月にわたり写真と作家のテキストのみの展示を継続した。その間、どれほどの人々がその場を訪れ、タイトルもなくポカンと、唐突に写真が展示された空間で何を思ったか知る由もない。しかし、そのような不可思議な場所が存在し、日常ではどうしようもなく忘れさられてしまいがちな東北沿岸部での出来事とその記憶が、遠く離れた地でふと共有され、一人一人の記憶の中でささやかにでも紡がれていく機会は実は大事ではないかと思う。
熊本地震もあり展示準備期間の4月以降多忙を極めることになった。被災地に通うにつけ思う。こうした思考の場を持つことは、「あくまでも自分のためを思って思考して欲しいと願っている」と結ばれる本展フライヤーに引用された、あかたちかこさんのテキストにあるとおり、「誰かのため」ではない。
京都展フライヤー裏面
草本の写真展示と伊藤さんの紙芝居
黒板に投影された記録映像。画面は雄勝町