アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

あなたが感じていることと、わたしが感じていることは、ちがうかもしれない

社会福祉法人 安積愛育園 はじまりの美術館

実施期間
2017年4月8日~7月9日

活動の目的

福島県会津地方では都市部と比較すると芸術作品の鑑賞機会が少なく、マナーを身につけていない方も少なくない。標記事業では、タブーとされている「作品についさわってしまう」行為の裏にある根源的な欲求に注目した。「みる」「さわる」からうまれる対話を通し、鑑賞者にとって新たな視点を獲得する機会創出を目的とした。

活動の内容

4月はじめより出展作家への作品の借り受けや、出展作家の大崎晴地氏の滞在制作を実施した。
4月9日より展覧会開幕。会場内には「みる」「さわる」「かんじる」「はなす」という言葉パネルを、鑑賞のヒントとして設置した。幼児から高齢者、そして障害のある方もない方も、多様な人が展覧会をじっくりと鑑賞し、これまで開催した展覧会と比較すると鑑賞者の滞在時間も長くなった。さらにカフェスペースには「ちがいのあしあと伝言板」を設置し、鑑賞者がかんじたことを残し、共有することができる場を設置した。
また「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」、開館記念祭「はじまるしぇ」をはじめ、さまざまな関連イベントを開催した。
実施場所:はじまりの美術館

参加作家、参加人数

出展作家として、乾ちひろ氏、大崎晴地氏、佐久間宏氏+歴代支援員、高岡源一郎氏、高橋舞氏、光島貴之氏、山本麻璃絵氏の計7組が参加。会期中2,434名が来館し、展覧会を楽しむ風景が見られた。また、近隣の小学生が作品を体験するために何度も通ったり、障害のある方、特に県内の視覚に障害のある方が多く来館された。

他機関との連携

「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」という団体の協力を得ながら展覧会の企画を練ったり、ワークショップを実施することができた。また、猪苗代町と猪苗代町教育委員会から後援をいただいた。

活動の効果

鑑賞機会の拡張および鑑賞活動の充実を図り、町内外から多くの方が来館した。鑑賞者は、いわゆる障害をもつ作家や現代美術家などが制作した多様な作品を「みる」「さわる」「かんじる」「はなす」という軸を通して鑑賞を行った。過去の展覧会と比較し、同行者やスタッフ、偶然その場にいた周りの人に感じたことを伝える来館者が多くみられた。ゆるやかにつながる場となり、誰もが生きやすい社会の創造の一端を担ったと考えられる。

活動の独自性

はじまりの美術館は、靴を脱いで展示室に入る美術館である。素足になることで木のぬくもりを感じながら、感覚をより高めて作品を鑑賞することができる。また展示室の出口と入口が同じであり、鑑賞者は自由な順番で作品を鑑賞することができる。展示室入口では、鑑賞者に「おすすめは、まずはみる鑑賞をし、一番奥の部屋まで行ったら、ウェットティッシュで手をふいて、あとは自由にさわって鑑賞してみてください」と案内がある。「みる」や「さわる」という行為を行き来しながら、その向こうにある「感じていること」は人によって異なるということを伝えた。そしてそれは、美術館以外の場所でも起こっていることかもしれないと、提案した。

総括

はじまりの美術館の初めての試みとして、みてさわることができる展覧会を開催したが、予想以上の反響を得ることができた。それは「みる」「さわる」という行為に留まらず、「かんじる」という誰もがしている行為を通じ、それらをゆるやかに共有することができる展覧会になったからだと推測する。見た目と触感が異なる作品や、さわったとしても得られる情報が少ない作品、そして真っ暗闇で見ても何もわからない作品など、さまざまな作品の展示をした。鑑賞者の楽しみ方もまたさまざまで、スタッフのおすすめどおりすべてみてからさわる人、最初からすべてさわる人、目をつぶりながらさわる人、作品を軽く叩いて音を楽しむ人など多様だった。そこでは美術の知識は不要で、それぞれの個人の経験と重ねながら作品と向き合う時間が流れた。
「あなたが感じていることと、わたしが感じていることは、ちがうかもしれない」という言葉は、鑑賞の場面に留まらず、教育、福祉、日常生活などさまざまな場面に通じる言葉である。
「ちがうかもしれない」という前提に立ち、日々を思索する試みは、誰もが生きやすい社会づくりに必ずつながるであろう。今後も今回の事業での経験を元に、活動を続けていく。

  • 展示室入口の様子(山本麻璃絵作品)

  • 来館者が作品を鑑賞する様子(光島貴之作品)

  • ワークショップ実施風景(撮影:白圡亮次)