アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

家々の調べが聞こえる~南三陸即興門付け

ENVIS(I エンビジ)

実施期間
2017年7月18日~2018年3月31日

活動の目的

真新しい公営住宅や住宅が建ち並ぶ高台の新しい町々。ようやく仮設から新居に移った町民に課せられているのは、再度のコミュニティーづくりと持続可能なまちづくりだ。住民の出会い直し、アイデンティファイ、そして、シビックプライドの醸成を目指して、継続してきた「みんなのきりこプロジェクト」を発展させる。
実施場所:宮城県南三陸町全域

活動の内容

●8/25~9/10に町内の商店や事業所などを中心にきりこを制作し、各所に82絵柄160枚のきりこを飾り付けた。また、9月から10月にかけ、新設された公営住宅の集会所5カ所をめぐり、そこにお住まいの方々との対話から48人の参加者の一人ひとりのきりこを制作した。
●11/3~5の3日間、みんなのきりこ音楽隊が門付け演奏を行いながら、完成したそれぞれのきりこをプレゼントした。家々の物語から想を得た旋律やリズムなどを5人の音楽家がそれぞれ作曲。
のぞみ福祉作業所、入谷桜沢集会所、ハマーレ歌津、波伝谷カキ剥き場、津の宮カキ剥き場、産業フェア会場、沼田東集会所、丸平木材、民宿あおしま荘、志津川西集会所、志津川中央集会所、中央団地内阿部家、京極、宮川家、松野やの15カ所にて門付けを展開。
実施場所:宮城県南三陸町全域

参加作家、参加人数

●参加作家
みんなのきりこプロジェクト/千葉ひろみ
みんなのきりこ音楽隊/鈴木広志・木村仁哉・大口俊輔・田中庸介・チェジェチョル
●参加人数
みんなのきりこプロジェクトに関与した町民の数200名程度/一般鑑賞者 10,000人超
みんなのきりこ音楽隊参加者数/500名

他機関との連携

前半は南三陸町観光協会、南三陸さんさん商店街・南三陸ハマーレ歌津の協力を得て開催。後半は、さらに加えて、南三陸町・南三陸社会福祉協議会との協働で開催した。

活動の効果

津波から生還してきたささやかなもののこと、生きるために地を這うように生きて来た苦労の日々のこと…。自分自身では決していい思い出ではなかったことも、それぞれのエピソードが白い切り紙になり、他者に認められていく体験によって、自分の人生を肯定し、誇ることができる視座を生み出すことができた。門付けした音楽を聴きながら、きりこが表す一人ひとりの物語を共有する時間は、人と人との出会い直しにつながった。

活動の独自性

みんなのきりこプロジェクトは2010年から8年間続けて来たプロジェクト。激変する町の風景、環境に相反して、かつて存在した町の隅々で営まれて来た人々の歴史を白い紙で表し続けてきた。津波から7年の年月が経過した今、被災した当事者たちが忘れてしまいがちな、それぞれの家の誇りやアイデンティティーを、あらためて思い起こしていただくための大きな力となっていることを私たちも実感できるようになってきた。2軒の店が商品に「きりこ」のデザインを取り入れ、新設の病院や役場の建物の中にも地域を表した「きりこ」のパーテーションが設置されるなど、今では南三陸のシンボル的な存在にまで発展した。

総括

真新しい住宅と新たなコミュニティーでの暮らしは、津波ですべてを失った人たちの根っこやこれまでの人生の道のりを消し去っていくように感じられる。本来のコミュニティーから仮設へ、そして5~6年続いた仮設から新たなコミュニティーへと、激変する暮らしに加え、年齢も重ねるなかで、人付き合いに疲れて閉じこもりがちになる方も増えている。お会いした方の多くが「なに一ついいことなんかなかった」とつぶやいていて、ご自分の人生に肯定的になれないでいた。そんな中、一人ひとりの人生のひとこまが白い切り紙になって、近所のみなさんに共有される時間は、ご自身の思い出の重さとも重なって特別なものになった。各場所で奏でられた音楽は、みなさんが内省する時間を創り出し、久しぶりになつかしい記憶と向き合うひとときになった。
次の段階としては、ご自身がご自分のきりこを切り、みんなで日程を合わせて一斉に展示する期間を町に創り出したい。一枚の紙を切り、飾ることが、交流人口を増やす観光コンテンツにつながり、一人ひとりがまちづくりに一役買うという主体的な状況を目指して、この取り組みを続けていきたい。

  • 町営志津川西復興住宅の集会所でのきりこ贈呈と門付け演奏を終えて。歓談まで残られた住民のみなさんと

  • 町営志津川中央復興住宅の集会所で。きりこ贈呈の後、音楽を楽しむ住民のみなさん

  • 新築の家々へも門付け。プロジェクトメンバーの宮川舞さん宅に新築祝いの門付け演奏