アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

イミグレーション・ミュージアム・東京(通称:IMM)

特定非営利活動法人 音まち計画

実施期間
2022年4月1日~2023年3月31日

活動の目的

美術家の岩井成昭が主宰する「イミグレーション・ミュージアム・東京」(2010年~現在)は、地域に居住する海外ルーツをもつ人びととの交流を通じて企画されるアートプロジェクト。「ミュージアム」という名称でありながら施設を持たず、東京都足立区の空き店舗や教会などを転々と移動しながら活動を展開している。
10年以上の活動の蓄積をもとに、多文化社会を「知り」、多文化社会を「考え」、多文化社会に「参画」していくプラットフォームとなることを目指し、多国籍化の進む都心地域から多文化社会を多角的に問い直すきっかけをつくっている。

活動の内容

足立区内の小学校を対象に「アート・エデュケーションプログラム」を実施。アートを通じて文化的多様性を知ることを目的に、オリジナルのプログラムを開発した。具体的には、(1)身体を使ったプレレクチャー (2)対話型鑑賞 (3)海外ルーツのアーティストによるアーティスト・ワークショップ (4)(1)-(3)を振り返るワークショップという4段階でプログラムを構成した。
実施校については、足立区と連携しながら区の世論調査から多文化共生を課題としているエリアを抽出し、そのエリアに位置する小学校4校を選定した。
2022年11月から2023年1月にかけて、実施校の5、6年生を対象に、計7日間にわたるプログラムを実施した。

参加作家、参加人数

アーティスト/クロエ・パレ、セピ―デ・ハセミ
アートコミュニケーター/一般社団法人アプリシエイトアプローチ
運営スタッフ/IMM東京事務局、東京藝術大学の学生、IMMねいばーず
生徒計237名のほか、校長や担当教員、自治体職員など約20名がプログラムに参画した。

他機関との連携

足立区(シティプロモーション課)、東京藝術大学音楽学部・大学院国際芸術創造研究科

活動の効果

実施後、担当教員へのヒアリングと子どもたちへのアンケートを実施した。担当教員からは「学校教育の評価とは関係なく、一人一人の想像力を尊重する自由度の高いプログラムが子どもたちの成功体験になった」との声や、その後の英語の授業での集中力が高まったなどの声が寄せられた。また、子どもたちからは、創作や鑑賞によって一人一人違う考えが引き出されることの面白さやその発見を肯定的に捉える反応が多く寄せられ、他者との差異を知り尊重する機会を創出できた。

活動の独自性

アウトリーチは1日完結型の場合も多いが、本プログラムではより深度ある体験をつくるべく複数日にわたる実施を重視した。そのため、企画の段階からアーティストやアートコミュニケーター、自治体職員とミーティングや学区のリサーチを重ね、一貫性のある4段階のプログラムを開発した。また、プログラム実施前に実施校の担当教員との打ち合わせを通じて、各学校の特徴に合わせたプログラム内容に微調整するなど実施先との連動を図った。
本プログラムには、アーティストだけではなく、IMM東京事務局やIMMねいばーずからも海外ルーツを持つスタッフが多数参画した。プログラム内容だけでなく、多様な大人との交流からも日本の多様性に触れられるような体制で実施した。

総括

1年目であった2021年度はひとつのエリアでの実施に留まっていたが、2022年度は区内全域でプログラムを展開することができた。とりわけ、多文化共生に課題を持つエリアの小学校を対象にしたことで、実施先の潜在的なニーズに訴求することができ、複数日にわたる開催が実現した。
本プログラムでは、アーティストの作品を教室内に展示し、その作品を読み解く「対話型鑑賞」と、アーティストとともに展示作品に手を加えていく「アーティスト・ワークショップ」を軸に流れをつくることで、アートに馴染みのない子どもたちもアートを身近なものとして捉えられるよう工夫した。アートを映し鏡にすることで、身近にいるクラスメイトの多様性を知るだけでなく、アーティストや多様な大人との交流を通じてさまざまな生き方に触れる機会になったという好意的な感想が寄せられた。
本プログラムの実施を通じて、多国籍化が進む区内の教育現場からは「多文化とアート」をテーマにした本プログラムへのニーズが高いことが明らかになった。今後も地域課題・教育課題に呼応したプログラム設計をしながらさらなる実施先を開拓していきたい。

  • 教室に展示された作品を鑑賞する子どもたち 〈Send me back home〉 (2023) Sepideh Hashemi 撮影:冨田了平

  • アートコミュニケーターによる対話型鑑賞 撮影:冨田了平

  • 身体をつかったプレレクチャーの様子