活動の目的

2016年4月に震度7の地震に二度襲われ、震源地の一つ熊本県上益城郡御船町にあった故・田中憲一（1926～1994）のアトリエが全壊し、地域の芸術文化振興のために残されていた150点余の油彩画が倒壊家屋の下敷きになり長雨にさらされていたのが、熊本の近現代美術にとっては最も大きい被害だった。田中は教鞭を執りながら創作活動を続け、晩年は地元で地域の歴史や文化を掘り起こし、芸術文化を再興する活動のリーダーだった。この田中の代表作を修復・保存するとともに展示活用をしながら、田中の中学・高校の先輩である浜田知明や井手宣通など、多くの美術家の故郷でもある地域の文化復興をめざしていく。

活動の内容

１ 被害が大きい田中作品の大作2点を修復する。 修復はIWAI ART保存修復研究所にお願いし、国際特許取得の最新の修復技術も使い修復を完成させる。
2 「フットパス・知明少年の通学路を歩く」のマップを作成。広報資料として配布し、マップを活用したフットパスを春と秋に開催する。
3 熊本県立美術館分館ギャラリーで、これまでの活動成果を紹介する「田中憲一・被災／レスキュー」展を開催する。
4 学習会「無言館の画家・佐久間修と静子」等を開催する。
5 缶バッジや絵葉書、スケッチブックなど、オリジナルグッズを制作し、今後のイベントで使用。協力者を拡げる。

参加作家、参加人数

1 岩井希久子（絵画保存修復家）、岩井貴愛（絵画保存修復家） 　
2 「フットパス」　スタッフ／事務局等10人、参加者／春・21人、秋・15人　
3 「田中憲一・被災／レスキュー」　展出品作家／田中憲一、井手宣通、佐久間修、浜田知明　来場者／1,060人、学習会参加者／29人

他機関との連携

IWAI ART 保存修復研究所、御船町、御船町教育委員会、御船町文化協会、御船町観光協会、熊本県教育委員会文化課、熊本県立美術館分館、熊本県文化協会、（一社）アートネットワーク熊本みふね　など

活動の効果

コロナ禍が続く中で「フットパス」や「学習会」への参加者を少人数や町内在住者に制限をしなければならず、多くの参加者を望めなかったのは残念だったが、「被災／レスキュー」展の開催や「学習会」、「フットパス」等の活動の新聞・テレビでの報道を通じて、地域の人だけでなく多くの人への理解や関心が高まってきている。町外からの問合せも増えている。オリジナルグッズもできたので、今後のイベントで活用していきたい。

活動の独自性

地震で全壊したアトリエから地元画家の作品150点余を救出し、修復して保存・展示を可能にし「地域の宝」として未来に伝えようというプロジェクトを、公的な支援が見込めない中、自らも被災した地域住民有志が中心になって始めた。それは、そのままではゴミとなってしまう作品への愛着だけでなく、画家がめざしていた地域の芸術文化の再興の願いを引き継ごうとすることでもあった。
それに、絵画保存修復の専門家や大学の保存科学の研究者などの支援が得られ、さらに多くの団体・企業・個人からの協力を得て、ほとんどの作品の修復・保存の計画が実現している。修復した作品の紹介・展示や「熊本のバルビゾン・みふね」と呼ばれる地域の美術文化への関心・理解を拡げる活動も継続している。

総括

熊本地震 田中憲一の画を救う会は「平成28年熊本地震」直後の2016年7月に、救出した作品への公的支援が得られないと分かり、故・田中憲一を知る地元の有志で結成。以来、多くの専門家、企業、大学、個人の協力を得て活動を継続してきた。2020年度からこれまでの活動が認められて、修復費の２／３を熊本地震被災文化財復旧補助金で得られることになったが、残りは当会の負担になっているので、「アートによる地域振興助成」を受け、今年度の修復事業が可能になった。熊本県立美術館分館で「被災／レスキュー」展を開催でき、多くの人からこれまでの活動への感謝の言葉をいただき今後の活動の励みになった。また将来のことを考え、修復した作品だけでなく田中憲一という画家を生んだ地域の美術文化の豊かな歴史を伝え、新たな芸術文化を再興するために、定期的な「御船町フットパス」の開催や御船の美術についての「学習会」の開催を通してさらに理解者や協力者を増やしていく目標ができた。現在、修復を終えた代表作は御船町カルチャーセンターに常設展示をしているが、今後は作品を展示・公開・保管する施設を多くしたり、地元の小・中学校などへの出前授業などを実施していきたい。

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  地震の被害がひどかった油彩画の修復作業

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  フットパス「知明少年の通学路を歩く」開催

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  修復を終えた田中作品を紹介する展覧会開催