アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

紀南アートウィーク 2022

紀南アートウィーク実行委員会

実施期間
2022年4月1日~2023年3月31日

活動の目的

紀南地方(和歌山県南部)を代表する産物である「みかん」を中心に据えたプロジェクト。農家の方々も自然の恵みを現出させる表現者=アーティストであると捉え、現代アーティストの方々を交えた、肩書に捉われない有機的な集団(コレクティヴ)で、地域で可視化・言語化されていない価値を表現し、世界へ発信する。また、2021年秋に実施した芸術祭「紀南アートウィーク2021」にて邂逅した、多様で生命力豊かな方々との結びつきを強め、この地域でアートを媒介とした活動を継続的に行っていくための持続可能な繋がり(コミュニティ=コレクティヴ)づくりにも取り組む。

活動の内容

10月に実施した展覧会「みかんマンダラ」展を起点に、開催に向けた準備期間に行ったフィールドリサーチや、専門家等を交えたトークセッションなどを通し、実り・菌・土・神話の4つの展示テーマを設定。1会場1テーマとし、それぞれのテーマと響きあう会場、作品をキュレーションして展示を行った。また、開催中にはのべ13の関連イベントを実施。様々なトークや絵画ワークショップ、親子での農園体験、土壌の薫りを感じる食事会や、未来の農園作りを目指してみかんの苗木を地域の里親に預ける贈呈式なども行った。
展覧会の総括はホームページに記事としてアップし、来場いただいた様々な専門家たちのレビューも掲載した。1月にはアーティストや展示会の関係者、農家の方々などを招いたささやかな新年会、2月には40種近い柑橘を味わえる食事会なども実施。

参加作家、参加人数

参加作家/廣瀬智央(日本)、ビー・タケム・パッタノパス(タイ)、ピヤラット・ピヤポンウィワット(タイ)、トゥアン・マミ(ベトナム)、クイン・ドン(ベトナム)、狩野哲郎(日本)、AWAYA(日本)、bacilli(日本)、クゥワイ・サムナン(カンボジア)、VR蕎麦屋タナベ(日本)
展覧会参加人数/約2,000名
関連イベント数(年度内)/20回

他機関との連携

後援/和歌山県、田辺市、田辺市広育委員会、田辺観光協会、(株)紀伊民報、FM TANABE、テレビ和歌山
協力/ivory books、秋津野ガルテン、Artport (株)、Yeo Workshop、石山喜重子、石山登啓、伊藤農園、橘本神社、Gallery Ver、熊野ログ、藏光農園、K型 chocolate company、coamu creative、小谷農園、小山登美夫ギャラリー、Colographical、Sa Sa Art Project、Shinju、鈴木農園、NPO法人ZESDA、十秋園、湯治のできる宿 しらさぎ、Nha San Collective、紀州原農園、文化科学高等研究院、ふたかわ超学校、一般社団法人MAP、まつさか農園、松下農園、まるまつ農園、南方熊楠顕彰会、明光バス(株)、ユカ・ツルノ・アートオフィス、Restaurant Caravansarai、ワカヤマスコラボ

活動の効果

地域を代表する産品であるみかんを主軸に据えたため、国際芸術祭として開催した2021年に比べ、地域の方々には興味を持ってもらいやすく、改めて暮らしのすぐそばにある柑橘の持つ意味などを考え、感じてもらうきっかけを創出することができた。特に本年は地域内の鑑賞者を増やすことを目標としていたため、とても手応えを感じた。また、リサーチから協働していただいた農家の方々にとっても、アートや人文学的な視点から柑橘を眺めることはとても刺激的であったようだ。

活動の独自性

行政の補助金やバックアップを受けない、完全民間型のアートプロジェクト/芸術祭として、短期的な指標を重視せずアジャイルな運営を行いながら、活動の収益化などにも積極的に取り組んでいる。フィールドである熊野は、歴史・風土・文化・自然などの様々な文脈が深く交差しながら堆積しており、現代アートや文化人類学などの視座を通して、地域のもつそれらの価値を再解釈・再定義しなおして、可視化や言語化することを行う。また、全世界へ向けた地域文化アーカイブスとして、HPやSNSでは全て日英の二言語で発信を行っている。

総括

複数会場での大規模な国際芸術祭として行った初開催の2021年に続き、テーマをシンプルにし、地域に根ざした活動にシフトすることを目的とした2022年度の活動。
作品の展示だけでなく、年間通して開催した多くの関連イベントにおいて、地域の様々な人たちとコラボレーションすることで、コレクティヴ(=コミュニティ)の土壌づくりに取り組み、多くの賛同者を得ることができた。アーティストだけでなく、農家、学者、デザイナー、ボランティア、展示を鑑賞してくれた子どもたち、など、肩書などを問わないこういった繋がりを丁寧に紡いでいく事が、今後の活動の基盤になると再確認することができた。
現代アートに限らず、文化的な楽しみのまだまだ少ない地方都市では、こういったローカルな輪を広げていくことはもちろん重要だが、同時に、世界の潮流にもアンテナを張りながら、グローバルな強度を持ち得る活動として、バランスを意識して取り組んでいきたい。
今年度のテーマであった「みかん」は今後も継続し、本年度に提示した様々な問いや気付きをより深めながら、新たなリサーチやアウトプットを行い、「まずは10年継続する」という一つの目標を目指して活動を行っていきたい。

  • 未来の農園へ向け、苗木を里親に預ける贈呈式 写真 Manabu Shimoda

  • トークイベントは同時配信や文字起こしも行う 写真 Yoshiki Maruyama

  • 廣瀬智央《みかんコレクティヴ》2022年 展示風景 写真 Manabu Shimoda