アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

釜ヶ崎芸術大学2021

特定非営利活動法人こえとことばとこころの部屋

実施期間
2021年4月1日~2022年3月31日

活動の目的

コロナ禍1年目は、それでも場を開き続けることで、さまざまな事情を持った人と出会い、彼らが語り始め、希望を見出す場面に出くわすことになった。今年度も引き続き場を開き、社会的弱者に閉じ込めず、閉じこもらず、表現できる場をつくるための活動を地域のなかにつくりつづける。専門家と連携することで、支援ではないスタンスから、当事者と社会との接続点をつくっていきたい。社会を更新していくモデルとして釜ヶ崎芸術大学・ココルームの日常の場づくりを言語化するために、社会的インパクト評価や検証にも取り組む。ワークショップと発表、調査分析、そのプロセスの公開など、地域における芸術活動を多角的に拓いていく。

活動の内容

釜ヶ崎芸術大学の講座をできる限りオンライン/オフラインのハイブリッドで実施、合唱・俳句・詩・美学などの表現プログラムを開催した。2020年度取り組んだ社会的インバクト評価で掘り起こされたことば「呱々の声」を引き継ぎ方向転換した人材募集プログラム「呱々の人」を開催。「呱々の人」の通過点であり実験の場として3日間のプログラム「釜ヶ崎オ?ペラ?」を7月と3月の二度実施。大阪大学とのプロジェクトKamahanは2020年度に取り組んだフードロスを地域に拡げ展開させた地域コンポストをテーマに実施した。また、2月には大阪関西国際芸術祭に出展し、大阪の商業の中心地船場で釜芸講座を多数開催。来場者と表現した成果物を展示場に掲出し、毎時毎分うごめき変化し続ける場を創出した。

参加作家、参加人数

107講座、参加者1,725名。
講師/山本則幸(指揮者)、倉田めば(アーティスト)、水内俊雄(地理学者)、中川眞(音楽学者)、西川勝 (自由律俳句)、高木智志(人生俳句)、茂山千之丞(狂言師)、大澤寅男(文化生態観察)、村上正行(教育工学)、砂連尾理(ダンサー)、尾久土正己(天文学者)かまぷ~(釜芸サポートスタッフ)他

他機関との連携

大阪大学未来共創センターとの共催でコンポストの実践。ビッグイシュー・ダンスボックスとの共催で元ホームレスのダンス集団ソケリッサを招聘してダンスの講座を実施等。

活動の効果

人材募集プログラム「呱々の人」は、「釜ヶ崎オ?ペラ?」の実施と度重ねた話し合いにより、スタッフやココルームに関わるメンバーが「正直に自分を表し、ココルームとはたらく」をテーマにそれぞれが取り組んでいく出発点になった。また一方で、二回目の「釜ヶ崎オ?ペラ?」を経てかまぷ~(釜芸サポートチーム)メンバーが複数人増えて体制が拡充され、組織の持続性を支える進展があった。

活動の独自性

ココルームをどう持続させていくかを掴みとることを目的に検証してきた社会的インパクト評価「呱々の声」が、人材募集プログラム「呱々の人」を経て、人がさまざまな困難に直面しながら〝どうはたらくか〞ということにテーマが方向付けられてきた。期末に実施した「釜ヶ崎オ?ペラ?」では、〝はたらく〞をテーマにさまざまな切り口で語り考える場を設けた〝どうはたらくか〞は、〝どう生きぬくか〞ということでもある。また自然災害も多発するなかで、循環し持続する社会を考えることは、人々が生き続けられる社会を考えることでもある。
釜ヶ崎では元労働者は高齢化し、死が非常に近くにある日常のなかで、彼らがどう生きぬいてきたかを聞き取りながら、参加者とともにわれわれが〝どう生きぬくか〞に熟思を重ねていることは、必然とも考えられる。

総括

引き続きコロナ禍による社会規制の緩急の波が続くなか場を開き続け、釜ヶ崎の労働者が利用してきた場や会が閉鎖されるが、ココルームに来て釜芸に参加することが貴重な場として喜ばれた。釜芸の会場はココルームが多くなりはしたが、ほぼ全講座を会場/オンラインのハイブリッドでおこない、遠隔地からの新しい参加者もみられ、層が拡がった。また、2~3月に開催された大阪関西国際芸術祭では、平面作品や映像の多い展示に比して、変化し続け参加もできる釜芸の部屋は異質で印象に残りやすいものとなった。幼児から小学生の子どもと親というこれまでには少ないタイプの層が多く来場し、船場の会場と釜ヶ崎ココルームを回遊し、多くの人に存在と活動と思いを知ってもらえる良い機会となった。
組織としては、今年スタッフが全員新しくなり、人手不足ではあるが多くの応援者が現場に駆けつけてくれた。「呱々の人」「呱々の声」によりはたらくテーマが導き出され関係者に共有され、かまぷ~(釜芸サポートチーム)が増えた。この場を構成するはたらく人が拡充したことは大きな成果だ。次期は、釜ヶ崎芸術大学が変化する釜ヶ崎の地で生きぬくこと。釜ヶ崎で生きぬいた人々の残したものを取り扱っていく。

  • 「ソケリッサと踊ろう」山王集会所

  • 「もしゃもしゃの会」ココルームテラス

  • 「釜ヶ崎と表現をめぐる研究会」