アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

Artist on the Sea project in Sakaide

瀬戸内国際芸術祭坂出市実行委員会

実施期間
2021年4月1日~2022年3月31日

活動の目的

海は、まるで生き物のように変化している。しかし、護岸工事をすることで海岸線は変わらなくなった。潮の流れの変化というメッセージを我々は感じることができなくなり、海との関係から決別していっているようにも思える。
これまでに積み上げられてきた海の文化は、先人たちが境界線をしなやかに縫いながら生きてきた証である。瀬居島の海とともに暮らす人々にこの術を学びながら、アーティストが翻訳者となって作品を制作する。このアートプロジェクトを通して「海に対する身体性」を再び取り戻し、境界線について考えることを目的とする。

活動の内容

1 アーティストの制作工房とレジデンスを充実させた。
2 「瀬戸内芸術祭2019」に参加以降、坂出市で滞在制作を続けているYottaが、街のリサーチを重ね、海にまつわる作品を制作した。長年使われていなかった船を使用した作品で、実際に走行できる状態まで持って行くことができ、沙弥島までクルージングを行った。
3 与島五島を巡るために与島の漁業組合と協議をし、各島の漁港に寄港する許可をいただいた(但し、新型コロナウイルスの影響で、島への渡航を年度内に行うことはできなかった)。
4 与島五島の自治会長と協議をし、Yottaの作品でこれから何ができるかなどの話し合いを行った。
5 御供所港の漁師さんへ船に関するリサーチを行った。
6 「Artist on the Sea in Sakaide」のウェブサイトを制作し、オンラインでの情報発信を開始した。
7 文筆家の三木学さん、アーティストの栗林隆さんと、オンライントークを実施した(2022年3月26日・27日)。

参加作家、参加人数

参加作家/Yotta 
オンライントークゲスト/三木学氏、栗林隆氏

他機関との連携

坂出市、与島五島自治会、与島漁港

活動の効果

今回の活動で、今までアートに関心のなかった方にも情報を周知できた。また、芸術祭に否定的な方にも、耳を傾けていただけるような状況ができている。これまでは、望んでも作家と関わる機会が芸術祭の作品制作の手伝い以外あまりなかったと聞くが、レジデンスや作家滞在型の展示によって、現代美術や海の文化について気軽に話すことのできる場もできつつある。

活動の独自性

アーティストがレジデンスを作り、アーティストが企画運営をし、アーティストが行政に働きかけてプロジェクトを行うという点。今回のYottaの活動においては、常に動き続けているアートプロジェクトが公共の場所にある=関わろうと思えばいつでも関わることのできる場所に作品やアーティストがある(居る)という状況をつくることができた。また、コロナ禍のため、展示の場をウェブサイト上にも拡げたことで、プロジェクトの進捗状況を発信でき、SNSでのコミュニケーションも可能となった。その他にも、理解されにくいアートに対して、継続的に親子参加のワークショップを行うことで、現代美術の作品を鑑賞するという体験とは異なる、作家の思考の追体験ができるような活動にも力を入れている。

総括

今年度は、コロナ禍で長期のまん延防止等重点措置や、緊急事態宣言がでていたため、人が集まる企画や、高齢者の多い閉じられた集落(島)に訪れることが思うようにできなかった。しかし、このような状況下でも、アーティストが制作などを通して街の人との繋がりを地道に作っていけたことは次年度以降の活動に繋がる成果であったといえる。今回のYottaのプロジェクトについては、芸術祭などに前向きではない地域においても、身近な「船」の作品であったこともあり、快く受け入れてもらうことができた。そのため、当初からの目標でもある「アートで与島五島を結ぶ」ということが、少しずつではあるものの、実現可能であると行政も含め手応えを感じたように思われる。今年度、次のアーティストを招聘するための拠点となる工房・レジデンスの整備ができたが、このプロジェクトの立ち上げに際しては、客人(まれびと)としてのアーティストに対して、街の人はよく思っていないという意見もあった。こうした街の意見を尊重し、継続して坂出に関わり続けるアーティストを探すことに難しさも感じているが、引き続きこの地での活動を続けるYottaの次の展開と併せ、今年度築くことのできたネットワークや交流の場を活かし、引き続き地道な活動を続けていきたいと考えている。

  • ドックにて船を譲って下さった地元の方と

  • 工房で地元の方に溶接を教わっているところ

  • 栗林隆氏とのオンライントークの様子