アートによる地域振興助成成果報告アーカイブ

アジアローカルクロッシング:海とともに生きる

遠足プロジェクト実行委員会

実施期間
2021年4月1日~2022年3月31日

活動の目的

1 海外アーティスト・技能実習生・地域住民らの三者協働のアート実践と現地サポート体制の構築:コロナの影響でインバウンド推進が大打撃を受けている石巻市・気仙沼市における多文化共生のあり方を、オンラインで地域団体と連携して行う。

2 多文化共生社会実現に向けた住民と技能実習生らの相互理解の促進:住民と技能実習生が食やアートを通して交流することで、「外国人」ではなく、顔の見える個人同士の関係性を育む。また、気仙沼、石巻のプログラム参加者同士の定期ミーティングや、SNS上の交流を通して、両地域に共通する課題について理解を深める。

活動の内容

コロナの影響を受けて当初予定していた街歩きやワークショップを参加者限定で開催。また、海外作家の来日が叶わなかったため、地域のローカルな人材と海外アーティストのオンライン参加の折衷案を実践した。(2021年7月16日~8月1日)
気仙沼/リアス・アーク美術館市民スペース、ピアセブンでの展覧会開催。気仙沼インドネシアフェスティバル参加+内湾での撮影会開催。技能実習生らと交流し出船(船が出航する際の見送り行事)参加、地域文化を再発掘し大漁看袢(船主が船員に贈る着物)Tシャツ制作。
石巻/障害者美術館く・ら・らでの展覧会開催、パルコキノシタワークショップ、関係者座談会、アート街歩きにてリボーンアート・フェスティバル会場や市内アートスペースをまち歩き。DAIS石巻(団体活動拠点)整備開始。

参加作家、参加人数

気仙沼/レオナルド・バルトロメロス、ワンジット・フィルマンティカ、斉藤道有、前田晃壽(第81大喜丸)、インドネシア技能実習生、他市民のみなさん。1,524人(オンライン視聴1,264回)
石巻/パルコキノシタ、石巻劇場芸術協会、黒田龍夫(石巻祥心会)、清水孝夫(国際サークル友好21)、市内障害者施設のみなさん、他市民のみなさん。311人

他機関との連携

気仙沼市教育委員会、リアス・アーク美術館、気仙沼まち・ひと・しごと交流プラザ、第81大喜丸、石巻市教育委員会、リボーンアート・フェスティバル、石巻祥心会、国際サークル友好21、石巻劇芸術協会

活動の効果

コロナ禍の厳しい状況下での地域住民、移民や技能実習生、障害者などのマイノリティコミュニティとのリアルと、オンライン折衷の新たな協働の視座を示す事ができた。行政主導プロジェクトでは見えづらい、個人の声を拾う事ができた。ポストコロナ時代のトランスナショナル・アートプロジェクトの重要さを痛感し、継続や成果、集客数のみを重んじるアートプロジェクトの危うさを認識できた。今後のDAIS石巻(団体の活動拠点)での実践の道筋が描けた。

活動の独自性

我々は、コロナ禍の影響で大きく縮小されてきた国内インバウンド事業の間違いに気がつかなければならないが、現在のような状況下でも臨機応変に対応し、多文化共生・協働を実践している。遠足プロジェクトの約10年間の活動の国際ネットワーク形成の経験を地域市民に還元し、継続ありきではない循環する新たなトランスナショナルな循環系が構築されつつある(あえて言うならば10年後でもさ・れ・つ・つ・あ・る、である)。遠足プロジェクトの新拠点であるDAIS石巻は、美術館機能を持った市民目線での伝承館準備室であり、ポリフォニーの実践・循環系はすでに始まっている。

総括

報告書のリアス・アーク美術館館長山内宏泰氏と美術評論家市原研太郎氏のコメントが本事業をよく言い当てている。遠足プロジェクトが掲げる「当事者として共に背負う」とは、一体どういう事なのか、本事業の実践で学ぶ事は少なくなかった。山内氏の指摘する20世紀型の美術館が「誘導して理解を促す」モデルは、コロナ禍、またはポストコロナ時代の21世紀アートには適していないように感じられた。コロナ禍の影響でプロジェクト開始後に大きな変更があったが、それらの状況への対応は、「アンラーニング」であり、「リスタート」、の連続であった。自らの足でまちを歩き、そして感じることから始める。遠足プロジェクトが被災地と被災者と共にある事に、開始当初から変化はない。本事業が求めてきた「循環系の構築」とは、アーティスト、地域住民、我々実行委員会のメンバーも含めて参加する全ての人たち、すなわちプレイヤーとなる人全てが「主役」となる場であるからこそ成り立つものである。アーティストやキュレイターがお膳立てしたものを享受してもらうのではなく、「共に学び背負う」継続したプロセスそのものがアートなのである。

  • 出航する前の「出船(でふね)」送りに参加

  • 気仙沼の玄関口では約120 点の作品を展示  写真:Michiari Saito

  • ランドセル作品を背負い作品を観て回った  写真:Mayumi Yamada