活動レポート
2020年3月17日アート助成
Vol.13 みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ(東北芸術工科大学)の活動紹介
■みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレとは芸術祭の舞台となる山形市は、約25万人の地方都市。山形県は4つの盆地・平野がそのまま古くから文化圏を形成しており、その中の1つ村山盆地に位置し、盆地という地勢から「文化が溜まりやすい」土壌です。
山形ビエンナーレは、日本では珍しい、行政ではなく大学が主導の地域型芸術祭です。東北芸術工科大学は全学を挙げて、クリエイティブ志向の高い人材育成に取り組んでいます。また地域密着の活動、産学交流にも力をいれており、山形ビエンナーレもその一環として位置づけられています。
東北芸術工科大学の学生も、芸術祭開催年度の4月から本番の9月にかけて、授業、勉強会、現場での運営実習、一部制作実習という形で参加し、2回生から4回生には単位も付与されます。
さらに大学ではアートや建築、プロダクトデザイン、文化財修復といった、多彩な教授陣を抱えており、彼らがうまくミックスして、コレクティブ集団として機能することで、芸術祭を始めとする活動を支えています。
■山形ビエンナーレのプレイベント
今年度は、2020年に開催される山形ビエンナーレのプレイベントとして2月6日(木)~11日(火・祝)に『「街とアートのマルチプレイ」+「詩ノ箱」成果発表展・イベント この街のあなたへ。』が開催されました。
トラフ建築設計事務所の「山カップ」、和合亮一の「詩ノ箱」のほか、森岡督行の「山形建築ガイド」、spoken words projectの「わたしたちを物語る服をつくる」、座談会<いま、アートに何ができるんだろう?>なども、その関連プロジェクトです。
上記の各プロジェクトは、街の中にある伝統的な建築物や、空きビル(とんがりビル)等を再生した空間を拠点として使用しています。
例えば「山形建築ガイド」ですが、森岡書店の森岡督行氏が、市民ライター15人と訪ねた、山形県内の名建築ガイドブック「ひとり歩きの山形建築ガイド」の出版を記念した読書会でした。黒川紀章(寒河江市役所)、谷口吉生(土門拳記念館)、隈研吾(銀山温泉/藤屋旅館)、坂茂(キッズドームライ)、SANAA(荘銀タクト鶴岡)など、山形各地にある新旧の名建築を通じて見えてくる風土と暮らしについて、執筆にあたった市民ライターが登壇し、トークセッションしました。イベントには100名以上の幅広い世代の市民の方が参加され、プロジェクトのプロセスが大切にされているからこそ、注目度の高いイベントになっていました。
「詩ノ箱」詩人・和合亮一と図書館で読み・書く
■今後の展開
2014年から3回は、山形市出身の絵本作家・荒井良二氏と宮本武典氏(東北芸術工科大学で教授・主任学芸員を2019年3月まで務め、現在は角川武蔵野ミュージアム企画GM)がプログラムディレクターとして、山形ビエンナーレを組み立ててきました。2020年からの山形ビエンナーレは、第2期に位置づけられ、新たな芸術監督に稲葉俊郎氏を迎えます。「山のかたち、命のかたち」がテーマです。過去3回、実施エリアは七日町という市の中心部と、市の南東部の山の中腹にある大学のキャンパスが中心でしたが、次回からは大学では行われず、市街地の中の数か所で実施することで、より街の中に、生活の中に入り込んだ芸術祭が期待されます。
そうしたこともあり、地元企業や商店との関係性は回を追うごとに強まっています。また、大学にとっての学生の就職支援、地元企業にとっての採用活動においても、芸術祭は一種のインターンシップとして機能しています。今後、物産の共同開発、食の開発、ツアーとの連携など、より具体的な産学交流のプラットフォームになる可能性も期待でき、東北芸術工科大学の卒業制作展でもその兆しを感じました。
今回のプレイベントを経て、今年9月に開催予定の「山形ビエンナーレ2020」は、新たな芸術監督の稲葉敏郎氏のもと、どのような芸術祭になるのか注目していきたいと思います。