活動レポート

2020年1月6日アート助成

Vol.10 五島 海のシルクロード芸術祭2019(NPO法人 BaRaKa)の活動紹介

■五島 海のシルクロード芸術祭について
2014年より五島市を中心にはじまった「五島 海のシルクロード芸術祭」は、2019年から新上五島町にメイン会場を移して開催いたします。
新上五島町では10月から11月の二ヶ月に渡って神社の例大祭で毎週のように神楽が奉納されます。五島神楽の時期に合わせ「五島 海のシルクロード芸術祭」を開催し、五島神楽や伝統行事と音楽やアートの融合を目指します。
新上五島町の自然・文化・歴史・美味しい食べ物・そして温かい人情に触れていただけるようなイベントを開催していきます。
Website: http://goto-art.com/

■伝統芸能、国指定重要無形民俗文化財「上五島神楽」との連携
五島列島は北から中通島、若松島、奈留島、久賀島、福江島の五つの大きな島そしてその周辺の小さな島々からなる列島で、今年の「海のシルクロード芸術祭」は一番北に位置する中通島で開催されました。主催者であるNPO法人BaRaKaの片岡優子さんにいつ訪れるのがベストか尋ねると、上五島神楽の上演がある11月2日の前夜祭から来るのがお勧めとのこと。夕方、長崎港を高速船で出航して1時間40分余り、すでに日の沈んだ有川港に到着し、まっすぐ青方神社に向かいました。


堂々とした鳥居が迎える青方神社


青方神社の拝殿に入ると、前方に畳二枚分の板敷が見えます。お神楽はこの小さな空間で演じられるのです。室町末期から今日まで四百年近く続く上五島神楽。30の演目が伝承されていますが、この晩は15ほどが披露されました。小学校低学年の女の子から80代の男性まで、息継ぐ暇もなく踊りを披露し、交代で太鼓や笛も演奏します。翁と媼(おうな)の面を付けた二人が舞うユーモラスな「山賀」、若い男子二人がアクロバティックな動きを見せる「神相撲」など、メリハリの効いた構成に会場からもやんやの声援が飛びます。最後は獅子舞。天狗も登場してひとしきり踊った後、天狗たちは小さな子どもをさらってお獅子の油単(ゆたん)の中に放り込みます。子どもたちはびっくり、会場は阿鼻叫喚。油単に入ると健康に育つということなのでしょう。気が付くと周囲は小さな子どもを連れたお父さん、お母さんでいっぱい。少子高齢化はどこの話? と思うほどでした。

■「神楽を拝して、五島の自然と文化を再発見する」
片岡さんは、昨年度まで五島市(下五島)で活動していましたが、今年から新上五島町(上五島)に拠点を移しました。上五島のお神楽と芸術祭のコラボレーションを目指し、新たに出発したところです。

芸術祭のパンフレットは、10・11月に上五島で上演されるお神楽の上演カレンダーに1ページを割いています。上五島では、二か月間に27の神社で前夜祭と例祭が行われるため、54回もお神楽が上演されているのです。一目で分かるカレンダーが作られたのは初めてとのこと。今も島の人々を惹きつけて止まない島の宝、「上五島神楽」の存在をくっきりと浮かび上がらせています。

同時にこの芸術祭では現代アートの活動が展開されています。11月4日には、ピアニスト・美術家の向井山朋子さんの演奏が行われました。国際的に活躍する向井山さんは、2018年に「雅歌」という音楽・ダンス・声・祈りを交えた新しい儀式の形を問うパフォーマンス作品をオランダ・高知・東京で上演し、話題を呼びました。この「雅歌」に出演した神崎智紀さんのご実家が上五島神楽を行う小串神社というご縁もあり、今回の演奏が実現しました。コンサートの前の週、向井山さんは、上五島高校の生徒さんたちに講演を行い、当日コンサート会場には百人以上の高校生が聴きに来ていました。演目は「カント・オスティナート」。情熱的なピアノの響きは彼らの心にどのように響いたでしょうか。四百年の伝統を持つ神楽も現代音楽も間近に体験できる島の若い人たちを羨ましく思いました。




左から 片岡さん、雅歌に出演した神崎さん、向井山朋子さん


上五島神楽保存会や有川神楽保存会の皆さん、そして政彦神社の吉村宮司、石田副町長はじめ新上五島町役場の職員、五島に魅了されてやって来たアーティストの応援を受け、芸術祭を載せた船は中通島の海を漕ぎ出したところです。古代から中国や朝鮮との交流があり、江戸時代は潜伏キリシタンの歴史も残る五島列島。東西文化の十字路という土地柄を生かしたユニークな芸術祭に発展していくことを期待したいと思います。